全国の人事パーソンへのメッセージ
Vol029想い切りトーク
取材日: 2022年3月25日
インタビュアー北澤 孝太郎
※会社名・役職等は取材当時の名称を掲載しております。
iYell株式会社は、金融機関と住宅事業者を繋ぎ、両者の住宅ローン業務をテクノロジーの力で効率化することで、住宅購入者に最適な住宅ローンを提供する住宅ローンプラットフォームを運営しています。全国数百行の金融機関、数千社以上の住宅事業者が参画し、本プラットフォーム内の住宅ローン流通額(GTV:Gross Transaction Value)は、2,000億円を超えています。(2021年10月現在) 同時に企業文化にも力を入れており、「応援し合う地球へ ~ chain of Yell ~」をビジョンに掲げ、働きがいのある企業ランキング(Great Place to Work®)に4年連続ランクイン、ホワイト企業大賞・大賞受賞を果たしています。社員を人財と捉え社員が働きやすい環境を作るなど経営陣が社員ファーストを追求している企業です。 今回はCHROの伊東拓真氏にお話を伺いました。
キャリアを考えた時にビジネスの一つのゴールとして、ビジネスを一番全方位的に出来る経営に携わりたいと考えたからです。
新卒で大手保険会社に入社したときに30年程の自分のキャリアプランを考えていました。10年ほど勤めた頃、経営に参加できるまでの期間を考えて、自分の成長が鈍化してしまうと思ったことが転職のきっかけです。そこから経営参加を軸にして考えた時、スタートアップ企業の方が自由度も高いのでその方向で探しました。
そう考えた時に転職先はほぼ一択でした。というのも、代表の窪田が大学時代の先輩であり親友でして、以前から一緒に仕事やれたらいいねと話していました。なので、転職を考えたタイミングでiYellにjoinさせて貰いました。
新卒の時は考えていませんでした。当時は大手で働いて安定した暮らし、社会的に認知度があって両親が安心出来るならそれでいいというマインドでした。でも、営業をやっていく内に徐々にビジネスの面白さを感じるようになって、50名規模のマネジメントを任されてさらに仕事が好きになりました。このマネジメント経験から組織に興味を持つようになりましたね。そんな中でMBAに触れる機会があって、経営に関することを学んでいく内に自分の視野がまだまだ狭いことを知って探求心に火が付いた形です。
社員が幸せに生きる仕組みを作ることですね。人生において仕事って大きなウエイトを占めています。でも、仕事を続けていくと嫌なことや上手く行かないことがありますよね。仕事が順調じゃないとプライベートもどこか楽しめない。反対に仕事が上手く行っていて、会社に来ることが楽しいと思える状態だったら、人生が楽しいって感じてもらえると私は考えています。そういう状態の人って仕事でも良いパフォーマンスを発揮してくれますよね。つまり、マネジメントというのは社員が幸せを感じ、自主的に動く仕組みを作ることだと思っていて、私はそれをずっとやり続けています。
一番は生存欲求を満たすというか存在欲求を満たすことです。どうしても営業組織って売上を上げないと存在している意味がないみたいな風潮があります。実はそんなことはなくて、「居てくれるだけであなたは素晴らしくて組織の役に立っているよ」というスタンスを徹底していましたね。上長は一番初めにそれを明確に伝えてあげる必要があると思います。なので、私は基本的に売上の話はしないです。ただ、働く目的や目標というのは人によって違うので、稼ぎたい方に対しては売上の話はしていました。すべての人に共通していることは、全員に対して何を目指しているのかといった目標をヒアリングして、期待値の摺り合わせをやっていましたね。
それは対等な相手として向き合えているかどうかじゃないでしょうか。さきほどの存在を認めるというのは、逆に言えば相手に存在を認めてもらう事が重要です。相互理解とか相互認識してもらうことがキーです。前職でいうと営業所経営は、営業所長や営業部長がいて、営業員、営業事務と大きく分けてこの3つの役割があります。営業所長はある程度の権限を持っているので、中には偉いと勘違いしてしまう人がいます。実際はそんなことはなくて、全体の統括をする役割を担っているだけです。マネジメントに苦労している人は自分が偉いと考えているから部下が腹落ちしないような命令や指示を出してしまうのだと思います。
私が徹底してやめさせた発言があります。営業員が営業事務の方に対して、「自分たちが稼いでやっているんだから」という発言。逆に営業事務の方も「何でこれが出来ないんですか」という発言も私のチームにおいて禁止でした。こういった発言や考え方を含めて、人として向き合うことがちゃんと出来ていない方が多いなと感じていましたね。
そうですね。今でも覚えていますが初めて着任した時、管理職の先輩から「もっと詰めろ」とか「もっと怒鳴れ」と言われました。自分はそれが嫌で嫌で。教えを受けたので一回だけやってみましたが、もう足震えちゃいましたね(笑)えっ!?怒鳴るって何?と思いましたね。
もちろん、プレッシャーを感じる中で動くことも一つのマネジメントだとは思います。ただ、このやり方は再現性がない非常に低レベルなマネジメントだと思っていました。怒られたから/言われたからやった仕事って結局は何も身に付きません。だから、私はハッピーなストーリーで人を動かしてこそ、再現性のあるサステイナブルな組織ができるという考えを持っています。当時、「それじゃダメだ」と無茶苦茶怒られました。でも、怒鳴るマネジメントは一度やってみて、自分も相手も幸せじゃなかったので、上の指示は聞かず相手に寄り添う形を貫きましたね。
当社の経営理念は「何をするかより、誰とするか」なんですが、当時はそれ以外にも1000年経営やバリュー経営だとか色々なワードがあって、結局どういう構造になっていて何が一番重要なのかがわかりませんでした。私が着任した後に今お話ししたキーワードを体系化するプロジェクトが発足されて、経営すべてを体系的にどういう構造になっているか整理しました。その結果、全体にiYellが掲げる夢があって、これはビジョンでそこからブレイクダウンして経営戦略…と細かく落ちていきました。最終的に当社の経営戦略は文化と事業に分けるべきだと定義出来ました。文化戦略は会社の雰囲気の事を指していて、そこを戦略的にやる会社ってあまりないと思います。でも、iYellは事業戦略よりも文化戦略の方優先であるという考え方を創業以来取り続けています。なぜかと言うと、経営理念として「何をするか」ではなく、「誰とするか」が一番重要だからです。極論iYellにとって事業は何でも構わないと思っています。その事業を誰とするかが一番重要なので文化を優先しています。
まず、採用の段階から気を付けています。当社が考える重要な事は、「気の合う仲間/価値観の合う仲間と一緒に人生を歩んでいくこと」だと思っています。採用面談でカルチャーの大切さを伝え、当社との価値観に共感いただけるかを確認しています。カルチャーフィットを重視した採用活動は多くの面談時間を要しますが、スキルフィットだけの人は絶対に入社しないのでオンボーディングがしやすくなります。
そうなんです。隣の人の笑顔を見るのが好きで、そういう会社に勤めたい人であれば歓迎しています。他には、隣の人が泣いていたら手を差し伸べることが出来る人なんかもマッチすると思います。
経営理念の話に少し戻りますが、スタートアップでもビジョン経営とかミッション経営といって方向性を示してそこにぐっと引っ張っていくやり方があります。このケースでは、事業の方向転換を意思決定した場合、それに合わせてビジョン/ミッションが変わることがあって、その瞬間に振り落とされてしまい退職になってしまうことが往々にしてあります。iYellではミッション/ビジョンよりもバリューを重視しているので、どんな人がっていうところは変わりません。事業やミッションもそうですが、会社や世の中の変化に応じて変わっていくことは、iYellでは全く問題なくて、どんなものにも対応できる組織だということは自負しています
一言で言えば応援し合う文化です。例えば、毎年アワードという社内表彰があるのですが、普通は表彰される本人が感極まって泣く光景ってあったりします。でも、iYellの場合はその人と同じチームの人が表彰された人を想って泣くことがあります。その光景がiYellの組織風土を示している気がします。だから、仲間のために泣けますか?という質問を採用面談で訊いたりしていますね。
社員が幸せに働けているかというベンチマークの意味で意識はしていますが、それを獲るためだけに頑張っているわけではないです。私たちは経営として多くのステークホルダーがいらっしゃるので、お客様・株主の皆様等多くの方を幸せにするように考えないといけません。ですので、時には事業の方が優先されそうな意思決定がよぎってしまうこともあります。でも、やっぱり自分たちは文化優先だよねと思いとどまってここまで努力をして来たことが社員の幸せに繋がっていて、結果的に受賞に繋がっているのだと思います。ちゃんと私たちが社員を幸せにしていこうと考え行動していて、それが第三者からみても正しいと確認が出来てるいい機会ですね。
経営の透明性と経営陣の言動一致ですね。経営の透明性について僕らはコミュニケーションの可視化をしています。Chat work※2というコミュニケーションツールを使っています。このツールでは、社内の殆どの会話が閲覧可能な仕様になっています。そのため、他事業部のコミュニケーションも見ることが可能です。もちろん、人事情報とか一部クローズでやるものもありますが、それ以外のことは全部オープンにしています。経営についても部署など関係なく社員個人が閲覧可能で、この透明性は社内に浸透しています。
その他では、月に1回全社会を開催し、経営会議の情報を全部開示しています。先週経営会議で話したことを社員が見聞き出来る環境を意図して作っています。しかし、こういった取り組みをしていても「経営陣は何に時間を使っているのかわかりにくい」と指摘を受けたことがあり、結構悩みましたね。でも、経営陣に意見を言える環境が出来ていることはありがたいことだと感じました。ですので、経営陣はそういった指摘を受けたらすぐに変えよう!と動くようにしています。そして、変えたらそれを伝えています。
こうした取り組みを行うには、経営陣同士の一体感とスピーディーな情報共有も大切で、毎朝2時間くらい経営会議をやっています。「最近は誰が元気だとか、元気がない」といった日常の出来事も組織の文化に影響する重要な事項として共有し合っています。
そうですね。いくら経営が社員ファーストと言っても実際のところ社員が幸せかどうかはわからないですよね。色々組織系のアワードはいただいているので、相対的に他社さんと比べて社員が幸せそうなことはイメージ出来ますが…。それでも本当に全員を幸せにできているかどうかはわからない。では、経営は何をもって社員ファーストを体現していると言えるのか?と考えた時に、私は経営の時間を社員が幸せになるため使うことだと思います。よく、「なぜ社員ファーストを掲げているのでしょうか」、「社員ファーストって出来ているんですか」と質問されます。これって出来ているかどうかではなくて、実現しようと思ってそこに経営陣がコミットしていくことが重要なのでそれをブレずにやっている形ですね。
マインドで言うと、人事は経営を担っていると思えるかどうかです。会社にとって人は財産であるという話はよく耳にすると思います。そう考えると経営=人事だと私は思っていて、これを逆に考えたら人事=経営となります。ですので、自分の仕事は会社経営の一環であると意識している人事の方がどれだけいるかが会社にとって重要だと思います。人事担当者への質問で「あなたの仕事は何ですか?」と問われたら、私は「経営の根幹を担っている仕事」と言えるマインドセットが重要だと思います。元々人事部門って本来は経営が担うものと考えられていました。外資系大手PCメーカーでは、創業からしばらくの間は人事部門をあえて作らなかった。これは人事が不要だと考えたいたのではなく、人事は経営を左右する重要機能であるという考えからでした。会社が極大化した際に権限委譲しましょうとなって人事部門が後から出来た。でも、日本の人事ってこの考え方を持っているところは少ないように思います。それどころか社員を管理するものだと捉えている人が多い。私はもっとイノベーティブである方がいいと思います。だからこそ、人事は経営を担う仕事ですと言えることが大事だと考えていますね。
一番の解決法は経営サイドが人事=経営であると明言することだと思います。経営サイドで人事=人を管理することだと思われているのであれば、それを人事サイドから経営サイドに働きかけて覆すのは中々難しいです。
ただし、経営サイドを覆せない場合でも人事サイドでやるべきことはあって、戦略性を持って人事施策を立案することだと思います。人事施策は作って実行して終わりではなくて、その施策がどう生きて、結果として社員がどう動いてくれるかが肝心。これを戦略的に経営理念などと色々結び付けて、ストーリーとして人事施策の意味を語ることが出来れば、人事部門が経営としての役割を果たせていると言えます。スキルセットの話に戻りますが、人事は戦略性を持っていることが重要だと思いますね。
北澤
戦略性の他にもう一つ上げるとしたら、コンセプチュアルスキル(物事の本質を理解する力)が大事だと思います。例えば、人事評価についても評価って何のためにやっているのかを振り返って欲しいです。何のためにやるのかを突き詰めていくと、評価を起点にして管理することでは無いと自分で気が付くと思います。評価を通じてその人が主体的に動けるようにするためや、悪い評価をその人の気付きの機会として成長を促すことなどが評価の本質だと気が付くはずです。恐らく、本質を理解する力が足りないために管理することに意識が向いてしまうのではないでしょうか。なので、人事に必要なスキルはコンセプチュアルスキルを養うことだと思います。
まずは人事としてそのスキルが必要であると理解することがポイントかと思います。必要性を理解すればスキルって自然と習得していきますよね。コンセプチュアルスキルが身に付いていないとすれば、本人が必要性を理解してないからです。iYellでは、経営や本部長からメンバーになぜ必要であるかを伝えたり、気付きを与えることを意図したアプローチをするようにしています。それが僕らの文化でもあるので、お陰様で社員全員が考えてアウトプット出来ます。
この考えてアウトプットする力を養ってもらうために、中途採用でも新卒のように入社後1か月研修をしています。同じ時期に入社した人を同期と括ってチームを組んでもらい、そのチームに課題を与えて最後プレゼンしてもらっています。このプレゼンは僕らも本気で聴いて、本気でフィードバックします。先日もプレゼンがあり良い線までいっていたのですが、妥協したくないのでさらに課題をだして再プレゼンとなりました。その視点も間違っていないけど。別の視点からの考え方が足りないよね。といった具合ですね。経営からのアドバイスを貰ってそれを持ち帰って、再プレゼンした時に「すごく良くなったね!」と認められた時にやっと会社の一員になれたと実感してもらえているのだと思います。ですから、時間はかかっても入社の入口の段階でそういったマインドやスキルが身に付く仕組みは意識して作っていますね。
さきほどの話に戻りますが人事の方には、人事=経営であると考えていただきたいです。経営は組織を停滞させてはいけません。組織の停滞を防ぐためには、人事は管理ではなくてイノベーターであるという認識をもっていただきたいです。自分が旗振り役となりつつ、執行を担っていく方が増えてくれたらいいなと思います。
最近のトレンドで人的資本経営などが取りざたされていると思いますが、ISO30414でもあるように人の活躍を定量的に表現する意味を私たちも議論しています。今までであれば財務諸表に落ちないことをどうやって財務諸表に落とすかというような難しい問題です。これからの人事の仕事は結果が見えにくい仕事から、結果を見せていく仕事に変わっていきます。その変遷期に人事が出来ることが幸せであるとマインドを切り替えてもらえると毎日ワクワク仕事出来るのではないかと思います。
※1:株式会社働きがいのある会社研究所が実施した企業調査の中から毎年働きがいのある企業を認定している https://hatarakigai.info/ranking/
※2:Chatwork株式会社が提供するコミュニケーションツール https://go.chatwork.com/ja/
伊東氏Twitter: https://twitter.com/takumaiYell