全国の人事パーソンへのメッセージ
Vol024想い切りトーク
取材日: 2018年7月17日
インタビュアー北澤 孝太郎
※会社名・役職等は取材当時の名称を掲載しております。
2007年に創業された株式会社サウンドハウンドは、シリコンバレーに本社を置くSoundHound Inc.の100%子会社である。社名を冠した音楽認識アプリ「SoundHound」は、全世界でのダウンロード数が3億を突破。2015年には、この音楽認識アプリのユーザー動向や技術ノウハウも活用し、開発された対話型AIプラットフォームHoundifyを発表。競争が激化する音声認識分野で同社が打ち出す独自性や求めるエンジニア像について、日本法人代表取締役の中島寛子氏にうかがった。
私は大学を卒業して、最初は流通企業に入社しました。その会社を結婚退職して、しばらくは仕事をしていなかったのですが、同級生との偶然の出会いから世界的なアメリカのスポーツエージェントIMGで働くことになりました。外資系ははじめての経験でしたし、最初は英語もあまりできなくてとても苦労しました。その会社は、帰国子女の方がほとんどで、社員もみんなすごく英語ができましたので、私はとにかくコツコツ勉強しました。忙しくて学校に行く時間もありませんでしたから、通勤途中に勉強して、通信教育を受けて。その後、いろいろご縁があってIT系の会社に行くことになりました。そこからまた新たな苦労が始まりました。IT系では、右も左もわからない。言っている言葉もわからず悩みました。それで、またコツコツ勉強を始めました。
そうですね。大昔の話になりますが、IT業界に入ったばかりのころ、OSだとか、アプリケーションだとかさえ、何のことかわかりませんでした。私はガーデニングが好きなのですが、話を聞くうちに、OSというのは土で、ハードウエアは花壇、アプリケーションは種みたいなものだとイメージしました。そこからなんとなく親しみがわいてきました。さらにその時、新しく着任した上司がコロンビア大学でMBAを取得した方で、プロダクトマーケティングを中心にいろいろなことを教えてくださいました。この事がとても大きな良い影響を与えてくれて、この業界やマーケティングがすごくおもしろいなと思い、もっともっと学びたいという気持ちが溢れ出てきたのです。
はい。本社のチームがものすごく優秀で素晴らしい人たちでした。当時、ネットスケープ社は急激に有名になったこともあり、世界中から優秀な人材が集まっていました。みんな入社した瞬間からプロフェッショナルで、いろいろなノウハウを持っている。それが物凄くおもしろいと思いましたね。仕事をしているうちに自分もどんどん学べるし、本当にワクワクするほど楽しかったです。毎月のプレスカンファレンスや、お客様向けのセールスのミーティング、展示会への出展などを、最初はほぼ1人でやっていました。限度のない忙しさでした。ですから、本当にどんな人にも負けないくらいの力が自然についてきて、自分も自信がでてきました。
そうですね。会社にどんな強みや弱みがあるのかを一瞬のうちに理解する力がつきました。
そこから戦略的に考え、それを外に対してどうアピールしていけばいいのか、というプランニングとメッセージングの力が一番財産になっているのではないかと思います。経営者のように企業を全体として見るという、すごくいいトレーニングをさせていただいたと思います。
実は、自分で「起業するぞ」と思ったわけではありません。ネットスケープの後に紹介された会社が、入社してわずか3ヵ月後にITバブルがはじけて、日本進出をやめますと。
ああ、どうしようと思ったときに、知り合いのコンサルタントの方に、独立してやってみたらと言われたのです。不安だったのですが、「寛子さん、いい仕事をしたら、必ず次の仕事は来る」とおっしゃっていただいたので、なんとも単純に、それならばやってみますという感じで始めました。自分の会社を作り、いろいろな会社のコンサルティングをするなかで、出会ったのが現在のサウンドハウンド社です。日本での最初のPRやビジネス開拓を手伝ったことをきっかけに継続的に仕事を依頼され、日本法人の立ち上げに関わったというわけです。
私の場合は、シリコンバレーのベンチャーというか、小さな会社が起業していく過程がものすごく楽しいと思いました。自分たちが考えたビジネスを始めたくてしょうがないという強い情熱があって、みなさんすごく優秀だけど“いいやつら”みたいな。そういう人たちが会社を起業して、一緒に成長していくワクワク感は、本当に他に比べようのない楽しさです。そういうワクワクする新しいお仕事をしたくて、シリコンバレーに1人で行って、いろいろな会社を回った事もありました。
私が出会ったときは、midomiという音楽検索サービスを開始したばかりの時でした。コンセプトは、歌のウィキペディアのような感じで、ユーザーさんが歌った歌を録音して、それを検索のデータベースとして楽曲を探すというものです。そのコンセプトがすごくおもしろいし、私自身音楽が好きでしたので、なんて素晴らしいサービスなんだろうと思いました。
その時はないですね。サウンドハウンド(のアプリ)には、singing search、つまり歌って検索する機能と、original music recognitionという、流れている音楽を聴かせて検索するという、2つの機能が入っています。まず最初にsinging searchがあり、そのサービスを提供しながらoriginal music recognitionを開発し、さらに、speech recognition、いわゆる音声認識も開発しました。当初から音声認識や対話型AIはビジョンとしてありましたが、音楽認識サービスを提供しながら、音声認識技術の開発を進めてきたという流れです。CEOは「脳のように音を捉えたい」というコンセプトを最初から持っており、音声認識技術に特化した企業として開発を進めてきましたが、大変難しい技術でもあり、本当に山あり谷ありで、大変でしたね。
はい。その中で音楽が世に広めやすいとか、需要もあるだろうということで、最初は音楽からスタートしています。当社の現在のミッションは、「Houndify Everything」といって、当社の音声認識プラットフォームHoundifyをありとあらゆるIoT機器に導入していくことを目指しています。自社の特定のサービスだけを提供しているわけではありません。
そうかもしれませんね。当社の場合ですが、platform-agnosticで、プラットフォームを問わず、あらゆるIoT機器に入れられるというのを一番の強みにしています。
ライバルは、音声認識サービスを提供している大手グローバル企業の面々でしょうか。彼らは自社のブランドでサービス展開をしていますが、当社の強みは、企業顧客(お客様)のブランドを使い、お客様のご要望に沿ったサービスを提供できるところです。たとえば「OKレジェンダ」と言って音声検索を開始できたり、ご希望に沿ったシナリオでの対話仕様などもご用意できます。またお客様のユーザがどのように当社の音声認識技術を利用したのかというデータ(場所、コンテンツ、頻度など)を、その企業に公開します。
そうですね。融通が利くということは、差別化の非常に強い要因になっていると思います。また、柔軟な言い回しや意味理解、高速処理への対応など差別化の要因は他にもいろいろあります。
日本でも、多言語化を重視される企業が増えています。たとえば、当社は世界の複数の自動車メーカーさんとお話をしています。みなさん当社の技術に非常に興味を持ってくださっていて、多言語展開の必要性を感じています。当社も今30ヶ国語化を進めています。
優れた音声AIプラットフォームを提供するグローバル企業として、会社を大きく成長させていきたいですね。そのためには、いかにお客様にご満足いただけるサービスを作るかが重要ですので、非常に優秀なエンジニアが必要となってきます。
北澤
現在、採用はどのように行なっていますか?
日本法人は、まだまだ小さい組織ですが、本当に厳選して精鋭を採っているという段階ですね。当社の場合、試験がきびしいので、高学歴で非常に良いバックグラウンドの方でも、にべもなく試験で落とされることもあります。当社の試験は純粋に技術の採点のみです。コーディングや数学的能力と、やはりチームの一員として働ける人物かを見ています。日本と本社の最低3~4人の面接を通る必要があり、1人でもダメだと言ったら不採用になります。それがシリコンバレー流なのだと思います。
その通りです。当社はエンジニアが核の会社です。現在も毎月本社から必ずエンジニアを送ってもらい、直接ノウハウを学んでもらっています。入社初日はアメリカ本社に出社し、それから2週間はアメリカオフィスで技術や当社の文化を学んでもらいます。そのようなやり方を楽しんでいただける方が必要です。
やはり、すごく自由です。エンジニアを非常に大事にする会社ですね。フレンドリーで家庭的。とても優秀な人達がいいチームワークの中で、のびのびと働いているという印象です。
まず私自身が、一緒に楽しんで働きたいです。そして、お互いに敬意を持てれば一番いいなと思います。優秀な方を雇用することは基本ですが、信頼関係が持てることや、人として好感が持てることが大前提ですね。英語だとchemistryと言いますが、会った感じで、人として信頼しあえる心地よさみたいなものを感じられる仲間を選ぶことでしょうか。
日本企業とお話をさせていただく中では、膨大な資料を徹夜したり大変な思いをされて作られたり、それでも上司に叱責される様子などを見ることがあります。長年培われた企業文化を変えるのは難しいでしょうが「仕事は、苦しんですべきものだ」というメンタリティが会社にあると、それが製品を通じてお客様に伝わってしまうように思います。せっかく素晴らしい製品を作られているのに、とてももったいないと感じます。
本当にそうですね。効率ということを考えたら、みんなが安心し合える環境こそが最も効果的だと思います。いくらノルマや、怒鳴って恐れさせてやらせても限界があります。私自身、そういう上司の下で働いたこともあります。みんなの前で理不尽に怒鳴られたりもしました。一瞬その恐怖で仕事が進みますけれど、続かないですよね。ワーっと怒鳴ったら楽に進められると思う方もおられるかもしれませんが、その悪影響は実はかなり大きいと思います。私は長くこの会社で働いるのですが、当社にはミスをカバーしてくれたり、お互いに信頼しあう文化があるので、困難があっても本社の人たちとも力を合わせて、これまで仕事をしてこられました。人を大切にする以外、効率的な組織を作る方法はないと思います。