全国の人事パーソンへのメッセージ
Vol001想い切りトーク
取材日: 2015年2月16日
※会社名・役職等は取材当時の名称を掲載しております。
P&GからGEへ。先進的なマーケティングを展開する2つのグローバル企業の人事ワークを見つめてきた木下氏がWIN-WINの視点に立つ自らの信念を公開する。
「『出直してこい』そんな叱責を受ける社会人一年生でした」。
1996年。学生時代にマーケティングを学んだ木下氏は、ブランドマーケティングで世界的な評価を確立するP&G社の門を叩く。人事部配属を希望して入社、1年目から採用戦略を任された。「人気ランキングで30位くらい取れれば、成果として十分だろう」。予算とのバランスも考えて『合理的』なプランを練っていた。そんな木下氏に上司が一喝する。『1位でしょ?』と。
最初は無謀に思えた1位を徹底的に目指すことにより、産物として現在活発化する1dayインターンの原型を創った木下氏。「『合理的』なプランを捨て、学生時代に学んだマーケティングを採用活動に取り入れたこと、学生と企業のWIN-WIN構築もまた、産物の一つ」と言う。
アンビシャスなゴール設定を求められる環境、加えて上司との密な関係が、人事パーソンもとよりビジネスパーソンとして常に変革を求める自己を形成した。
2001年。木下氏は、幅広い視野を持ったHRキャリアの形成を目指すGE(ゼネラル・エレクトリック)へと活動の場を移し、GEのHRLP(Human Resources Leadership Program)に基づいて日本での営業育成、各国ビジネス部門でのCAS(財務監査支援)、タイのプラスティック工場での人事と、8ヶ月毎に3つの異なるキャリアを積む。その見識を活かし、プラスチックスやキャピタルなどの部門人事責任者を経験。アジアパシフィック人材・組織開発リーダーに就任し、環太平洋10ヵ国を訪れて次世代のエグゼクティブを発掘し、グローバルリーダーに育成する業務に携わる。充実したキャリアを歩む中、2011年にはあえて8ヶ月間の長期休暇を取り、アジア・中東・アフリカ・中南米の25カ国62都市を視察する旅に出る。学生時代にも世界各国を旅した経験を持つ木下氏は、今の世界各国を旅することより、あたかもシステムのOSのバージョンアップの様に自らの中にある古い世界観を新しいものに更新した。人事パーソンとしてのキャリアを積みながら、人事外の経験を豊富に重ねる木下氏は言う。「人事にイノベーションを生むには越境体験が必要です。外国を訪れる異邦人のように新鮮な目で組織を診断することで人事としてどういう攻め方をしたらよいか見えてきます。人事以外の仕事、つまり越境体験を持つことで提案に幅が出るのです」
2012年にGE人事部長に就任、HRの絶え間なき変革を追求し続けている。
GEは常に世界に向けて革新的なコアバリューを提示する。現在は、ITベンチャーの開発プロセスを組み入れた新たなワークフロー、ファストワークスの導入が進んでいる。商品開発などの仕事のスピードを加速させる手法で、顧客の意見を受け改良を繰り返し行い完成度を高めていく。お手本はシリコンバレーの企業だ。
「トヨタとGoogleがライバルになることを10年前に想像できた人はひとりもいなかったはずです。ITによる産業構造の爆発的な変化をGEが乗り越えていくためには、まず自分たちのカルチャーから破壊的なイノベーションを起こしていく必要があるのです」
“違和感はあるだろうが、これを乗り越えないとGEに未来はない”とGEのCEOジェフ・イメルトのメッセージも明確だ。シニア、マネージャー、そして全社員が一枚岩となって新たな企業カルチャーへの変革を推進する。
常に変革を求めるGEを、人事の面から加速させるHRの覚悟も並大抵ではない。「GEの人事トップは“勝つ組織を作ることが人事のアウトカムで、そのために、革新的な思想家たれ”と提唱しています。人事は革新的な方向性を導き、それを率先して実行していく。“火をつけてください”と人事トップが言っているのです」
木下氏は組織を変えるには人事だけではなく、現場を巻き込んでいく必要性もあると語る。「GEは管理職研修を行い、全社員共通の価値観である『GEビリーフス』を浸透させます。マネージャーの理解を浸透させるためのセッションも準備しています。いきなり人事がマネージャーに説明しても理解を得られませんから、トップから浸透させていくのです」そうやって一枚岩になることで、組織としての力をつけ、変革を加速させていくのだ。
「革新的なプランをいくつか導入したくらいでは、組織のカルチャーは変えられません。私たちGEのHRには、まず自分たちから率先して旧来の価値観を破壊し、新しいカルチャーを根付かせていく強力な先導者であることが求められます。
それを実現するために、これからのHRには、社員のエモーショナルな部分まで働きかけることのできるWIN –WINな関係を創造し、提供していく“マーケター”としての感性がより必要になってくると考えます。
また、常に異なるアングルから組織を俯瞰する“異邦人”の視線も求められます。これを養うためには、人事以外の様々な部署の体験あるいは人事の中でも自分の専門以外の様々な仕事を体験する「越境経験」が必要と考えます。そうすることによって、自分の引き出しが増え、組織のライフサイクルや進化のステージを見極める時間軸が養われます。
人事はまた、率先して組織に新しいカルチャーを取り込む“イノベーター”でもあります。常に最新の情報に接して、理念や企業文化などの組織のファンダメンタルな部分を構成するOSを更新し、多様な価値とコネクトするために自らが先行事例となっていく必要があります。
そのためには、人事は“オリンピアン”の決して折れない強い心が求められます。グローバル競争に勝ち続けるために、その原石となる素材を早期に発見し、適切な指導者による科学的なアプローチから育成を図るオリンピックの強化原理は、人事にも活かされます。
そして、組織の現状を把握し適切な処置を施す人事は“お医者さん”でもあるわけです。組織が疲弊する前にその兆候を発見して、原因を分析し、対処療法的な西洋医学的なアプローチとエモーショナルな東洋医学的なアプローチから対処を施します。そのためには、常に組織に新しい人材、情報、インセンティブなどの栄養素を注入し、予防的対処で組織の活性化に取り組んでいく必要があると考えます。
人事は組織のポテンシャルを高めるやりがいのある仕事です。これからの人事パーソンは旧来の人事のあり方に囚われずに新しい人事の姿を創っていく先行事例に自ら率先してなっていくことを期待します」