全国の人事パーソンへのメッセージ
Vol032想い切りトーク
取材日: 2024年12月26日
※会社名・役職等は取材当時の名称を掲載しております。
三菱電機グループの専門商社として、グローバルな資材調達と貿易事業を展開する三菱電機トレーディング株式会社。現在では国内に18の事業所を持つほか、タイや上海、インドにも拠点を持ち、三菱電機グループでも珍しい、グローバルな立ち位置でサプライチェーンの重要な一翼を担っている。創立45周年を迎えた今、「つなぐ」をキーワードに、新たな人事制度の構築やグローバル人材の育成に取り組んでいる。メーカーでの人事経験を持ち、商社ならではの視点も兼ね備えた同社取締役 総務部長の井上博史氏に、これからの時代における人事戦略についてお話を伺った。
弊社は今年で創立45周年を迎えました。元々は2つの会社が統合して誕生しました。一つは三菱電機の貿易部門として輸出入の事務を担当していた会社、もう一つは国内の部材調達を専門的に手がける会社でした。三菱電機本体の資材部門とは異なる、独自の専門性を持った調達の担い手として設立されました。
購買・調達は、三菱電機の資材部門と担当部材を役割分担しています。貿易業務については輸出入関連業務を担当しています。また、多くの工場で使用する部品の一括調達も担当しています。私共、三菱電機トレーディングが、「一手にお引き受けします」という姿勢で取り組んでいます。
また、グローバル展開も重要な戦略です。タイと上海に拠点(現地法人)があり、最近ではインドにタイの支店を設立しました。三菱電機の海外事業戦略を見据えながら、私たちが一歩先に動いて、連携できる体制を整えていきたいと考えています。
私は1988年、三菱電機に入社しました。最初の配属は兵庫県にある通信機器を製造する製作所の総務部でした。そこで12年ほど人事・総務の仕事をして、その後本社の人事部に異動しました。
その後、大きな転機が訪れました。2003年に日立製作所と三菱電機の合弁で設立された半導体の会社に転籍し、その後、2011年に三菱電機に戻りました。今思うのは、転籍していた間の経験が、本当に貴重だったと思います。もしずっと三菱電機にいたままだったら、経験できなかった経験ばかりでした。
三菱電機に戻ってからは、本社、研究所、空調機の製作所で経験を重ねました。
研究所での経験は自身の仕事への取組み姿勢を見直すきっかけになりました。研究部門の方々は理路整然としています。いろいろな施策を実施する際、なぜそうするのか、それにどういう意味があるのかを、的確に説明できないと、納得が得られませんでした。この経験から、「考えの言語化」の重要性を強く認識するようになりましたね。
私の好きな言葉に、マーガレット・サッチャー元英首相の「考えは言葉となり、言葉は行動となり、行動は習慣となり、習慣は人格となり、人格は運命となる」というものがあります。結局のところ、考えが運命をつくるということです。だからこそ、良い考えを持ち、それをしっかりと言語化して伝えていく。これは人事の仕事をする上で非常に大切なことだと思っています。
今、私たちが力を入れているのは経営理念の再設定です。コロナ禍を経て変化した働き方や激動化する世界情勢といった大きなうねりの中で、今一度、当社の立ち位置を再確認し、従業員全員がベクトルを合わせて未来へ進んでいきたいと考えたからです。弊社は、「つなぐ」というキーワードを大切にしています。「物だけでなく人をつなぐ」という考えは、私も昔から持っていたので、とても共感するところがあります。
弊社の経営理念はパーパス、ミッション、ビジョン、バリューという4つの要素で構成されていますが、バリュー制定には、事業部代表社員の方にも議論に参加してもらっています。弊社は製造メーカーではありませんから、人そのものが財産です。財産である「人」を採用し、「育成・配置・評価」というループを上昇・進化させていくことで、会社が進化すると考えています。
社内のDX化も積極的に進めています。今後はAIの活用が課題です。
組織づくりの基本は、社員の声をしっかり聴くことだと考えています。年に1回、従業員意識調査、ストレスチェックを、隔年で管理職の360度評価を実施しています。
各部門の満足度を前年度と比較し、得点が下がっていた場合はなぜそうなったのか原因を分析して改善策を考えるというプロセスに人事部門も参画します。点数の上り下がりだけを見るのではなく、その背景まで理解することが大切なんです。
また、年2回の社員代表者会議で率直な意見交換をしています。そこでの要望から新しい制度が生まれることも多いです。制度をつくるのは私たち人事の仕事ですが、その制度に魂を入れるのは社員一人ひとりです。どうやって趣旨を理解してもらい、活用してもらうかが重要ですね。
弊社は全国に20ほどの事業所があり、管理部門は本社集中型です。こうした構造では、現場との距離感ができてしまいがちですが、距離はどちらかが近づけば必ず縮まるものです。私たち本社メンバーが事業所を訪問することで、現場の声を直接聞くようにしています。
社長も非常に熱心で、「社長コラム」を定期的に発信しています。これは、ある事業所を訪問した際に社員からの要望をきっかけに始まったものです。社長が筆まめなこともあって、様々な話題を発信しています。社員の反応がとても良くて、私たち人事部門も、コラムの内容を施策検討のヒントにしたり、コミュニケーションのきっかけにしたりしています。こういった取り組みの積み重ねで、経営と現場の距離を近づけていきたいと考えています。
1年4ヶ月の海外OJT制度を設けています。海外で活躍できる人材というのは、語学が堪能な人とは限りません。大切なのは、バイヤーなら調達の専門性、貿易業務ならその実務能力です。その上で語学力も身につけていく。そういった視点で育成を行っています。
私がよく言うのは、人事には2つの顔があるということです。一つは、社長スタッフ、もう一つはサービス部門。時には厳しく臨まないといけない時もありますし、時にはサポートに徹しないといけない時もあります。
これからの時代、その役割はもっと多様化していくでしょう。管理部門という顔だけでは務まりません。どれだけ社員のニーズを聞けるか、どれだけ世の中の流れに敏感でいられるかが重要になってくると思います。組織の要として各部門と連携し、会社の発展と社員の幸せを追求する。それが人事部門としての使命だと考えています。
やはり現状を肯定しすぎないことですね。今の制度や仕組みがうまく回っているからといって、それに甘んじていて、社員の幸せを追求することをやめてはいけません。人事の仕事は難しいですし、90%はルーティンワークかもしれません。でもその中で、どうやって人を大切にする視点を持ち続けられるか。それが私たちに問われているように思います。
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