全国の人事パーソンへのメッセージ
Vol028想い切りトーク
取材日: 2019年8月27日
インタビュアー北澤 孝太郎
※会社名・役職等は取材当時の名称を掲載しております。
株式会社メルカリは、「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを作る」をミッションとし、2013年からフリマアプリ「メルカリ」のサービスを開始。月間利用者数が1300万人を超え事業が急成長。組織サイズも拡大し、採用や人事体制のアップデートが急務となるなか、2018年12月に同社に入社し、CHROに就任した木下達夫氏にお話を伺った。
GEに17年在籍しグローバルな人事業務経験を得ることができました。最後はマレーシアにあるアジア太平洋地域の本社(HQ)で、組織人材開発・事業部人事責任者としてアジア太平洋地域全体をカバーするという仕事をしました。帰国するにあたって、日本の企業のグローバル化を応援したいという気持ちが強かったのです。
そういう中で、知人の紹介でメルカリの話を聞いたところ、「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを作る」というミッションを掲げており、既に米国事業はあるが今後他国への展開可能性も考えている、また国内でも外国籍社員の採用が急増し、既にエンジニア部門の4割が外国籍なので、国籍に関わらず多様な人材がパフォーマンスやバリューを発揮して、活躍できる仕組みにするためには、人事制度を大幅にアップデートしないといけない。それにはやはりグローバルな経験がある人の視点が必要だとお聞きし、やりがいのある大胆なチャレンジだと興味を持ちました。
また採用面接を通じて、経営陣から組織課題が山積みであること、今後の事業成長のために課題に真剣に向き合って、メルカリらしい組織作りや人事の仕組み化を実現したいと聞いて、この状況を「課題解決遊園地」と捉えて、「カオスを楽しむマインドセット」で取組み、「新たな世界基準となるような人事施策を展開」できたらかなり面白いと考えて、入社を決めました。
一番に課題と感じたのは、人事のリソースが採用に極端に偏っていたことです。実際に、2018年は年間で800人くらい採用していました。当時は1年で社員が倍になって1,600人となっていて、採用活動としては相当大変だったと思います。一方で、採用された社員が入社後に継続的に活躍し、成長していく仕組みは十分ではありませんでした。そこで組織開発と人材育成を推進するOTD(Organization & Talent Development)を新設しました。
2つ目の課題は、組織拡大に伴い人事と現場との距離感が出てきたことです。部門長やマネージャー、メンバーから見ると、採用以外の場面で人事の存在が遠くなっていて、誰に何を聞いていいのかわからないという声を多く聞きました。
そこで部門の個別課題を把握し、マネージャーやメンバーに身近な存在となる組織担当人事(HRBP)を置きました。
3つ目は、マルチカルチュアルです。当時は外国籍の人がいるのに、社内コミュニケーションがほとんど日本語でした。英語話者が急増する中通訳を依頼すれば良いというスタンスではなく、直接英語で語りかける機会をもっと増やす必要があると経営陣に提案しました。そこからわずか半年間で、全社員が参加する定例のAll Handsを英語でも実施して、日本語話者に通訳することを試してみるところまで進捗しています。
前からそういう声は一部ありましたが、オフィシャルに経営陣に「英語化に向き合いましょう」ともっていったのは人事主導です。
それもありますね。やはりいろいろな国の方が入ってくると、「ツーカー」ではなくなるので、いかにわかりやすく、みんなの目線を合わせるかというのはすごく重要ですよね。
そこが「英語の通訳を入れれば大丈夫では?」という声にまさに関係するところですね。いやいや、構造が違うんですと。日本語の文脈で話しているところを一言一句英語に直しても英語話者にはピンときにくい。なぜなら、ものすごくハイコンテキストな会話だから。英語になると急にダイレクトになるので、実は日本人にもわかりやすいというのはありますね。
創業7年目ですので、今作っている最中ですね。社員の約半分が入社1年未満というところで、それぞれが結構いろいろな経験を持って集まってきています。そういう意味で「この会社はこうでなければならない」という部分は薄いと思います。ただ一方で、創業してすぐミッション・バリューというものを作って、それにすごくこだわりを持っています。バリューの浸透度が高くて、それは素晴らしいですよ。
取締役の小泉が前職のmixi時代の経験から、「この会社のカルチャーが好き」「この会社のカルチャーに共感する」「価値観に合うからここで長く働きたい」と思ってもらう組織を作りたいと考え、メルカリのミッションと3つのバリューを創業してすぐに作ったのです。そのひとつ目が「Go Bold-大胆にやろう」。2つ目が「All for One-全ては成功のために」。最後は「Be a Pro-プロフェッショナルであれ」。プロとして1人1人が自立して専門性を持って貢献しましょうと。
はい。採用基準も評価も全部このバリューに紐づいています。四半期毎の評価プロセスにおいては自分がこの三ヶ月間やってきたことを振り返って、どの点がGo Boldだったか、逆にGo Boldじゃなかったと思うことは何か。All for Oneは?Be a Proは?というのを自分で振り返って書くということを個人がまずやっています。
その上で、マネージャーが「ここはもっとGo Boldできた」「ここはまだまだAll for Oneではなかった」など、バリューを用いてフィードバックし、行動を強化しています。Go Bold賞、All for One賞などがあります。3つのバリューのうち、メルカリらしさってなんですか?と言えば、一番はGo Boldだと思いますね。
事業成長を加速させるために、個人と組織の両方がWIN-WINを最大化することを人事のミッションとして掲げています。この背景にあるのは「対等」という関係です。人事は、個人と組織の両方をWINさせたい。わかりやすい例でいうと、「副業ポリシー」です。
Be a Proの文脈でいうと、副業ができるということは、他の会社でも価値がある人だと評価できます。副業することで常に自分の市場価値をチェックできますし、他の会社に関わることで視野が広がります。「副業先でこんなことをやりました」もしくは「こんな新しいプラクティスがある」と、メルカリにどんどん持ってきてそれらを注入してほしい。それが副業を認めている背景です。
一方で、マネージャーから「副業なんてしたら本業のパフォーマンスが落ちないの?」という懸念はあります。そこは会社のWINも大事にするために、四半期に一回パフォーマンスレビューを回しています。本業でもパフォーマンスを発揮し、副業でも貢献できる。それぐらいの人物がメルカリの社員であるべきという、ものすごく高い期待を持っているんですよ。
「働き方改革」という言葉はこの会社にはないです。創業以来使ったことがありません。むしろ、どれだけもっとGo Boldになるかが大事なのです。それでGo Boldキャンプをやるとか、Go Boldになるために今後の新規事業をお互いにプレゼンしあうなどしています。それこそ、ハックウィークをやったり、Go Bold Dayというのをやったりもしますね。
メルカリの考え方として、人を育てるのは圧倒的にアサインメントだというふうに捉えています。もちろん、プログラミング言語の研修、英語研修といったスキルベースのものもありますが、それはあくまでツールに過ぎません。アサインメントをおもしろく、エキサイティングに実現できるかというところで始めたのが、人材開発会議です。これは、組織のトップ20~30人をキータレントとして可視化して、この人たちを2、3年かけて成長を加速させるためにどんなアサインメントをやっていけばいいかを話し合う会議です。
新規事業に入れるとか、新しい技術課題に取り組んでもらうとか、いろいろな可能性があります。それを個別のケースで経営陣やリーダーシップチームが話し合いでやっていくのです。
人材育成について経営陣はものすごくコミットしていますね。組織開発人材育成チーム(OTD)を作ったのもその表れです。
メルカリのカルチャーの土台にあるものは「Trust & Openness」です。Trustしているから思い切って任せられる。Openなので情報が開示され、共有されている。経営レベルの情報にもアクセスできます。だからこそ、大胆な手を各メンバーが打てるのです。自走、自立のベースには「Trust & Openness」が必須だと思います。
Trust & Opennessを担保するために、いかに心理的安全性をつくるかというところがすごく重要です。メルカリはすごく組織がフラットなので、経営陣と社員の距離が近いのです。だんだん組織は大きくなっていますが、それでもやはり他の会社よりは近いと思っています。例えばGo Boldにもミスはあります。しかし、失敗するくらいじゃないと挑戦する意味はありません。
例えば、私がありがたいと思ったのが、経営陣に人事に関する提案持っていったときに、「イチローでいいですから」と言われたことです。「イチローって何ですか?」と聞くと、「イチローは3割バッターです。3割でもすごいんです」と。つまり7割の提案は却下されますが、どんどんGo Boldに人事の変革を仕掛けていって欲しいというわけです。私も人事のメンバーに、そういう期待値だからどんどん持っていこうと話しています。この会社なら積極的に新しい案を持っていって、却下されても批判されない、Go Boldに大胆にやろうというバリューが徹底され、失敗から学ぶ姿勢が奨励されていることが、心理的な安全性につながっていると思います。
はい、多様な人材がお互いを尊重しながら自分の意見をオープンに議論できるカルチャーを大事にしています。
メルカリにはペイフォーパフォーマンスの原則に基づいて、具体的なフィードバックを通じて、バリューの実践を促し、成長を促進することを目的とした評価報酬制度があります。四半期ごとに評価サイクルを回しているのですが、評価プロセスにおいて同じチームのメンバーや他部署の仕事仲間から良かったこと、改善すべきことについてフィードバックをする仕組みがあります。心理的安全性と信頼関係が前提にあるからこそだと思いますが、結構皆さん改善すべきことも率直に書いています。これはマネージャーが言う以上のパワーや効果があります。
また最近では5段階評価(レイティング)を入れました。GEを含めレイティングをやめるという会社が世界的に増えていますが、当社では意思を持って導入しました。その背景は「期待に達していたか、達していなかったか」そのシンプルなメッセージを明確にするためです。マネージャーが伝えているつもりでも、人材の多様化が進む中で、言語や文化の違いがあり十分に伝わっていない例があることが課題でした。レイティングを使うことで、期待に達していたかそうでないかをわかりやすくなったとポジティブな反応が多く導入してよかったと思います。
今年5月にメルカリの組織や人材、メルカリらしい働き方に関する考え方をまとめた「Mercari Culture Doc」をリリースして全社員に共有しました。経営陣と人事で何度も議論を重ねて作ったもので、採用基準や、評価報酬や人材開発、オフィス環境など12の章で構成されたものです。ガイドラインを明文化し共有することで、組織規模が拡大しても一人ひとりがバリューに沿った判断や行動を実践することが出来て、ひいては事業や企業の成長を後押しするものと位置付けています。入社時のオリエンテーションでも紹介しており、新入社員にとっても有意義な内容になっています。
また今年から候補者体験CX(Candidate Experience)と従業員体験EX(Employee Experience)の向上に取り組んでいます。まずCXですが、採用力強化に引き続きチャレンジしています。採用は事業の成長戦略と連動していますし、エンジニアのリソースがあるからこそお客さまに価値を提供できる次のサービスが作れます。常に優秀なエンジニアの方が入社するような採用プロセスにしたいと思っています。その上でCXは、応募からオファーまでの時間がいかに短いか、オンボーディングの中の体験で当社のファンになって頂くことを目指し、最終的に入社するときのミスマッチがない状態を作るかというところが大きな課題のひとつです。
次に入社してからのEXでは、入社後のオンボーディング、入社研修、目標設定、評価、報酬など、現在使っている人事システムをアップデートする必要があります。そこで、プロジェクトチームを立ち上げ、様々な改善案を検討し、すぐに実施できることから始めています。
一方で、組織診断サーベイは、去年の12月から始めています。組織のコンディションとして、どこに負荷がかかっていて、どこにストレスがあるか。社員がどれくらい会社を知人に勧めたいかというeNPSもみています。さらにHRBPが部門の部門長やマネージャーと一体となって組織をよりよくする、PDCAを回すということをやっています。これをクローズドループと言っていますが、ここをいかに目に見える成果につなげるかが今の挑戦ですね。
人事が組織と社員の両方に寄り添ってというのは、どの会社でも同じ役割を持っていると思います。そのとき、どれだけGo Boldに仕掛けられるか、というところが本当に重要だと思います。守りの部分も重要ですが、それ以上に大胆になること。事業も競争環境が激しくなりどんどん変わっていかなくてはいけません。組織も個人も変わっていかなくてはいけないのです。そういう中で、人事が一番変わっていかなくてはいけない局面だと思います。
そこで「どれだけアグレッシブに仕掛けられていますか?」というのは、社内でもよく会話をしています。ある意味会社を超えて「どれだけ大胆にやっていますか?」という挑戦をし合いたいです。それが人事仲間に対するメッセージですね。メルカリにおける私の挑戦はまだ始まったばかりです。課題はたくさんありますが、その課題に「カオスを楽しむ」というマインドセットで取り組み、Go Boldで在り続ける姿勢が重要だと思います。
やはりビジネスドリブンであるべきだと思います。「グローバル化待ったなし!」で、経営者もどんどん危機感が高まっていると思います。環境要因が待ったなしの中で、どれだけ先手が打てますか?というところで、先ほどのイチローじゃないですけど、7割却下されてもいいんです。3割取れればいいぞ、みたいなところでどんどんあたりに行く。人事から経営に提案しても、断られてなんぼです。
私も正直、頑張ってキャッチアップしていますという感じです。社内コミュニケーションは100%Slackです。一切社内E-mailは使いません。100%ペーパーレスなので、ドキュメントが全部Google Docsです。共同作業で作っていくので、一切添付メールとバージョン管理がありません。先端の働き方だと思いますし、これは今後必須になると思えます。どれだけ早く適応できたかというところが、ひとつの競争力になると思います。
そうですね。テクノロジーをどれだけ活用してやっていくかというのは、生産性にも大きな影響を与えると思います。
メルカリにはAI社員がいるんですよ。ヒサシくんという、Slackのbotなんですが、社内用語や資料の保存場所など、メンバーからの様々な問い合わせに回答してくれます。「ヒサシくん、英語に翻訳して」と頼むと、メルカリ用語も全部わかっているので、かなり精度が高い翻訳をします。
これは、当社の良いところだと思いますが、AI社員に対して「みんなで育てよう」という姿勢がすごくあるんですね。例えばヒサシくんが知らないことがあると、みんなで教えてあげている。そうしたらヒサシくんが「ありがとうございます」と。次にその人が聞いたらちゃんとヒサシくんが教えてくれる。すると「よくできました」みたいなマークが押してあって「みんな、温かいな」みたいな。
いろいろ会社がAIの活用にトライしているけれども、なかなかうまくいかないのは、ツールというよりもカルチャーが実はバリアになっていたりします。どんどん新しいことにチャレンジしてダメなところがあったら、みんなで補ってあげればいいと思います。そうするとだんだん使い勝手が良くなっていき、同時に使う側の効果的な利用の仕方への理解が進んで、有意義な結果につながりやすいです。そのためにはグロースマインドセットが重要です。