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全国の人事パーソンへのメッセージ

人事部長の想い切りトーク

Vol025想い切りトーク

多様な人材で新しいモビリティ社会の創造に挑む

取材日: 2018年8月29日

インタビュアー北澤 孝太郎

※会社名・役職等は取材当時の名称を掲載しております。

トヨタ自動車は、2018年1月のCESにて自動車業界の変革にあたり、新たなモビリティサービスの創出を目指す「モビリティサービスプラットフォーマー」となることを宣言した。トヨタコネクティッド株式会社は、その戦略の中核を担う企業として国内外から大きな期待と注目を集めている。『ITで「人」と「クルマ」と「社会」をつなぐ』というミッションのもと、新しいモビリティ社会の創造に取り組んできた同社で人事総務部長を務める小関将人氏にお話をうかがった。

PROFILE“まずやってみろ”の精神で人事組織を一から立上げ

  • まず、簡単にプロフィールを振り返っていただきたいのですが、小関さんは、名古屋のご出身ですか?

    はい。名古屋で生まれ育ちました。私が生まれたのは、ちょうど団塊ジュニア世代のピークの年ですね。当時の子供が200万人と言われていたときで、常に受験戦争、就職戦争という時代でした。そんな中で、私のキャリアは、NTTの子会社からスタートしました。タウンページの独自性やメディア情報を日本全国に届ける点で、自分のやりたいことに合っていると思い就職を決めました。
    入社後は営業に配属され、営業としては成果を出せず、そのあと本部の管理部門に異動になりました。管理部門に異動してから半年くらいして、ドラマチックな出来事が起きました。私は、倉庫整理をやっていく中で、営業用のバイクが雑然と並んでいるのを、キレイに並べ直していったのです。それをたまたま通りかかった社長が見ていた。それで「あいつは芯があるよ。他の仕事に変えてやってくれ」と言ってくれたのです。そのときに、それならば人事へということで私の人事のキャリアがスタートしました。

  • さすが名古屋ですね。まるで、秀吉が信長の草履を温めていたという逸話のような。

    そうですね。だから、私が今も大切にしているポリシーは、たとえ自分の目の前の仕事がつまらなくても、一生懸命やっていればやっぱり誰かが見ているということです。そしてそれを見つけ出すことが人事の役割だということです。
    人事をスタートしてからは、制度の企画、設計、また、組合交渉を行いました。交渉の場にも出させていただいて、現場の従業員の生の声を聴きながら、制度を作りました。その後、自分の営業での経験も踏まえて、もともと営業成績のみでインセンティブのすべてが決まっていた仕組みを、営業成果だけでなく、プロセスも評価する制度を開発しました。

  • 人事の勉強をされて、その後、転職されたのはどのようなきっかけですか?

    時代の変わり目、節目が来たというタイミングですね。私は、NTT子会社に9年間おりましたが、当時は、IT革命、情報革命というようなことが起こり、紙媒体からウェブに切り替わっていく時代でした。やはりこれからはITが世の中を変えていくだろうとチャンスを求めての転職です。当時トヨタコネクティッドは車とITを使って、自動車ビジネスを変革することをキャッチフレーズにしていました。また、創業7年経ってようやく人事セクションを立ち上げるときで、“初めての人事募集・人事の立ち上げをお任せしたい”というフレーズが募集要項に書かれていました。

MISSION 「人事ドリブン」で多様な人材が活躍するフィールドを作る

  • 今までにない要素が入った新しい事業をやる会社で、人事を立ち上げるというのは非常にウキウキしますね。実際に入社してどう感じられましたか?

    想像以上に厳しかったですね。入社の年が、私のキャリアの成功も失敗も修羅場も、すべてが詰まった1年でした。入社初日に、キミのミッションね、と言われたのが、まず人事制度がないからゼロから作り上げてねと。さらに、新卒採用もしたことがないから、新卒採用をしたい、本社移転や経理もお願いしたいと言われました。現業重視で事業拡大をしていたので、管理部門の人材が不足していて、とにかく何でもやってほしいと言われました。

  • まず、どこからとりかかったのですか?

    当時は人事制度がなく、年齢給与をベースにした、年功序列の賃金制度でした。まず、それを職能資格制度に変えるところから始めました。親会社から資料をもらい、ある程度ベースになる考え方はできあがっていたので、一気に作ろうと。4月に入社して、制度の変更は7月1日。入社3ヶ月で人事制度を再構築しました。

  • わずか3ヶ月で年功一本から、職能資格制度に変えたのですね。

    そうですね。そのとき上司に言われたのは“あとは任せた”という一言です。「任せたから責任を持て」ということです。当時から“全員がリーダーであり、創業者である”、“自分で考え、行動する”という人材像が風土としてありました。担当領域については、自分がリーダーだから、自分で考えて、行動しなさいと。だから新しい制度をいっきに導入することができたのです。当時の常務が「巧遅より拙速」という言葉をホワイトボードに書いたのですが、“下手でもいいからまずやってみろ”というのは、当社の社風だと思います。

  • 当時の制度を構築してからもうだいぶ経ちますが、今に至るまでの人事的な課題と取り組みの変遷などを少しうかがえますか?

    はい。2009年~2010年は、リーマンショックの影響もあり、その間は採用も凍結して、まったく身動きが取れない状態が続きました。しかし、翌2011年に、トヨタ自動車がマイクロソフト社と業務提携を結び、車とITによる事業展開が一気に加速することになりました。キャリア採用を再開。そこで、昇格などの人事制度においても年齢・入社年数等の条件で、不利益が生じないように制度を再設計し、従来の職能資格制度ではなく、役割をしっかり果たしている人材が評価され、即活躍できる仕組みに変えていこうと。ミッションに対して役割を果たして欲しい項目を定めて、その項目に対する能力の発揮度合いで評価を行う役割等級というものです。途中から少し作り直しながら、現在は役割等級制度を導入しています。

  • 企業風土という面では、どんな風土を目指して、どういう手を打っていこうと思われていますか?

    これは経営課題にもなるのですが、他の会社との差別化の原動力は「人」と考えていますので、当社の社員には、会社が決めた方針にただ従うのではなく、もっといい会社にする為に、もっと自分を成長する為に会社には何を望むのか、自分自身で考え行動することを目指し、組織開発と人事戦略を一体化したような活動をしていきたいなと。

  • 具体的にはどのようなことを?

    事業規模が拡大していくと、やりたいことを「やりたい」と言える環境が狭まってきます。それならば、「やりたい」と言えるような仕組みを作ろうということで、少し挑発的なネーミングですが、「TC転職制度」を設けました。社内のイントラに求人票が並んでいて、上司の承認なく応募できる仕組みで、社員が自らエントリーして社内転職が成立するものです。

  • それで風土に横の柔軟性を持たせようと。

    そうですね。「やりたい」と言える仕組みと、同時に戦略的な配置も考えています。従業員情報を見える化して、その人の持つタレント性を部長以上が閲覧できるようにしています。それによって、スキルや能力を持っている人をスカウトできます。今年から導入したもので、社員側からと会社側から、両方から戦略的に配置していく仕組みを作り上げているという状況です。

  • 従業員全員の個性を活かす、人事戦略ですね。

    トヨタコネクティッドは、人材の多様性に強いこだわりがあります。多様性の源泉は、経験と熱量だと思います。たとえば、採用している多くのメンバーは、自ら起業した経験や、失敗した経験を持っています。自分たちが生き残る経験をしたメンバーは、生き残るための熱量を持っているのですね。社長から言われているキーワードが「エキセントリック」で、普通になるなよと。猛獣もいれば、柔軟なメンバーもいるという多様性を大事にする。一つのカラーに染めない、それが採用のポリシーです。

  • 採用のお話が出ましたので、採用戦略について、詳しく教えていただけますか?

    採用で気をつけていることは、今ある制度に無理に新しいメンバーを当てはめるのではなく、採用したいターゲットに向かって、制度を柔軟に変更していくことです。極端な話、その人ひとりを採用するための制度を見直ししたりしています。

  • 柔軟ですね。小関さんにとって、人事とはひと言で言うと何ですか?

    ひと言で言うと「他力」です。人事は現場で汗をかく社員を主役にするチームマネージャー的存在だと思います。陰日なたで頑張っている社員を1人でも多く見つけ、隠れた才能を引き出すことが人事の役割です。人事部門は、現場への権限委譲を進めて、人と組織を活かす裏方に徹するべしと考えます。それが、現場が強くなる一番の近道だと思います。

MESSAGE 「現場と向き合う時間」をどれだけ多く持てるか

  • 最近、企業理念を改めて明文化されたとうかがっています。その背景を教えてください。

    今の自動車業界は100年に1度の大変革期と言われていて、電気自動車、自動運転、コネクティッド、そういったものが技術的に進化していき、異業種も巻き込んだ競争の時代が始まっています。勝つか負けるかではなく、生きるか死ぬかという戦いです。昨年の1月、トヨタの豊田章男社長が「トヨタは自動車を作る会社から、モビリティカンパニーへ変革する」と宣言しました。そのためのキーワードの一つが“コネクティッド”で、「トヨタ自動車の将来の競争力の源泉になる、戦略的ビジネスユニットはトヨタコネクティッドである」と外に向かって発信するようになりました。
    企業を取り巻く環境が大きく変化しているときこそ、理念を掲げて、進むべき道を見極めていくことが重要であると考え、当社の創業時からの思いである「カスタマーインに挑戦する」に立ち返り、時代と共に変化、多様化するお客様のご期待に、終わりなき進化、永遠の挑戦への覚悟を持つという思いを改めて明文化しました。今回は若手を集めてプロジェクトを立ち上げ、理念を浸透させていく活動を始めています。

  • 戦略は考えやすいけれども、戦術に落とし込むのは非常に難しいと思います。ビジョンを実現するために、人事はどうあるべきとお考えですか?

    私は20年人事を経験して、これほどまでに人事が注目されている、人事の重要性を認識する時代は初めてだと思います。働き方改革、女性活躍、グローバル化などさまざまな課題があり、課題に対して今は豊富な事例や情報が取れるようになっています。しかし、それをいかに現場に落とし込むかという実行力については、スピリッツが大事だと思っています。トヨタでいえば「改善魂」といいますか。

  • トヨタの名副社長と言われた大野耐一氏の言葉ですね。

    そうです。「かくすれば、かくなるものとわかりなば やむに止まれぬ 改善魂(トヨタたましい)」と言っています。こうなるとわかっていたら、いてもたってもいられなくなる。今すぐそこに行って、改善しなければならない、そういった気持ちです。社長がよく「悩力を鍛えよ」と言います。能力ではなく悩む力です。“問題から目を離さない”“問題と出会うことを楽しいと思う”“問題のために悩むことを有り難いと思う”。人事は、つきつけられている問題と向き合って、悩んで悩んで悩みぬく。すると、最終的に何らかの答えが出てくる。その答えを自分たちで実行していく力を持てということだと思います。

  • 若手の人事パーソンに、何か言いたいことはありますか?

    現場と向き合う時間、従業員の声を聞く時間を大切にして欲しいですね。従業員と直接向き合う。向き合う時間をどれだけ多く持てるかで、成長するスピードが変わってきます。従業員の声を聞かない人事がもしいるとすれば、絶対いいものを作れるわけがありません。
    当社の社長がよく「ITドリブン」という言葉を使うのですが、私はそれを「人事ドリブン」と置き換えて人事メンバーへ言っています。少しでもあるべき姿に向かって、前に進む。その積み重ねが新しい道を切り開く。人事を起点として新たな仕組みが生み出されるという考えです。人事パーソン一人ひとりがそういう気持ちであってほしい。私は、人事なくして世の中の変革を成功させることはできないと思います。

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