全国の人事パーソンへのメッセージ
Vol023想い切りトーク
取材日: 2017年10月12日
インタビュアー北澤 孝太郎
※会社名・役職等は取材当時の名称を掲載しております。
国際総合物流の各分野でグローバルに活躍を続けているDHLグループの中でも、自社の貨物航空機を用いて貨物の国際輸送を行うエクスプレスサービスを展開するブランド「DHL EXPRESS」の日本法人であるDHLジャパン。5年連続でGreat Place To Work(働きがいのある会社)のベストカンパニーにランクインするなど、人事施策でも物流業界を牽引している、同社人事本部長の遠藤 明氏にお話をうかがった。
はい、都内にあるミッション系のアメリカンスクールに小学校から通っていました。父が貿易会社を経営していまして、将来、日本ではない場所で働く可能性があるだろうと。ただ幼い頃から家では日本語で会話していましたので、語学の面では非常に大変でした。
カリフォルニアの大学で生物学を学びました。その後、大学院では神学、聖書の学びや心理学、カウンセリングなどを勉強しました。そして日本に戻り、父の貿易会社を手伝っていたのですが、成長する機会がもっと欲しいと思いました。そこで、「週に1日は手伝うから、ほかの5日は別の仕事をさせてくれ」と父に交渉したわけです。
はい。当時、日本では消費者金融が高金利などで問題になっていて、日本に消費者金融を作ろうということで、大蔵省から招かれたアメリカの金融会社でした。立ち上げなので、少人数で営業をしたり店舗を開発したり、弁護士と一緒に5年計画、10年計画を作ったり、非常に学びの機会が多かったですね。そしてだんだんと社員数が増えていって、社長に「そろそろ人事部をつくるべきではないか、遠藤、向いているんじゃないか?」と。それが人事という仕事に携わるようになったきっかけでした。
会社に残りたい確固とした理由があれば、転職はしなくていいと思います。ただ、転職するために転職するっていうのはどうかと思います。なぜ転職したいかがしっかりしていることが重要ですし、目的のない転職は失敗します。私の場合は、会社をブランドで選ぶのではなく、どういう人と過ごすのかを大事にしてきました。転職するときは「一緒に働いてみたい」と思わせてくれる魅力的な人との出会いが常にありました。
そうですね。会った時点で重視するのは、その人を信頼できるか信用できるか。そして正直に話をしてくれるかだと思います。何かはっきりしない理由で転職を躊躇している場合は、それを理解するよう努力しますし、メリットを提供することが本当にできるなら本人にもプラスになるし、双方がウィンウィンになる。
前の会社は定年退職です。年齢的にもういいと思いましたし、趣味に時間を使いたいと思いまして。教会で聖書の勉強会をやっているんですが、人が成長して変わっていく姿を見るのは楽しくて、それが何よりの喜びです。DHLジャパンは、5年前でしょうか、今の社長は以前別の会社でも一緒だった方なのですが、「人事部長が辞める、また一緒に仕事しないか」と声をかけられたのです。その社長ともう一度働くのも面白いかもしれないけれど、もっと若い人がやるべきだと最初は断りました。その後、説明を聞いたり会合に出たりするうちに、人を大切にする文化が非常に素晴らしい会社だということがわかり、今に至ります。
DHLジャパンでは、「自らの志でキャリアパスを築く」というチャレンジ精神が風土として根付いている。ダイバーシティ促進への新たな取り組みの一環として女性リーダーの拡充などを目指すWomen In Leadership、昇進、異動は原則的にジョブポスティング(社内公募)など、社員のチャレンジを応援する制度が充実している。これらの継続的な取り組みによって、5年連続でGreat Place To Work (働きがいのある会社)のベストカンパニーにランクインするなど、社内のみならず外部機関からも高く評価されている。
やはり基本は「人」です。優秀な人は誰が見ても優秀です。また、この仕事は向いてないなという人もはっきりしている。その中間で、本当はできるけれど、何らかの理由で自分の本当の強みを出せてない人がいる。そういった人たちにあらゆる機会を与える。ワンモアチャンスを与えることが、大きな仕事の一つだと思います。社員一人ひとりは、人生で一番大切な時間をこの会社に投資しているわけです。形式上、場所を与えるのではなくて、成功する環境を与えてサポートしてあげることが大切だと思います。
そうですね。それをきちんと相手が理解できるように、正直に、相手が受け入れられるように話すこと。それが私の仕事だと思いますし、一度それがわかると、大部分の人は頑張ります。次のポジションまで行きたい、やりたいという人がいたら、失敗をしても守ってくれるという環境をつくることが一番重要だと思いますね。
人はミスをします。ですがミスというのは、人が育つきっかけにつながります。私は、間違ったら必ず上に伝えなさいと言います。けれどそれはステップ1であって、自分でこの間違いに対して、なぜそのプロセスを踏んでしまったのか、なぜ気づかなかったかを考えることがステップ2なんです。そうすることでラーニングができてくるわけです。それを自分が部長になったときに考えるようでは「too late」です。自分がそのポジションになったらどう考えるべきか。そういうことを絶えず考えている人は、実際その椅子に座ったときに、そういった能力や習慣がすでに身についているわけです。それは年齢や、女性か男性か何人かというのは全く関係ないと思います。
社長にゴマをする人はいますけれど、聞きたくないことを言う人ってあんまりいないじゃないですか。人事にはそういう役割もあると思います。社長がみんなからリスペクトされるような人物でいてもらうためには、間違っているときはきちんと言ってあげなければいけない。人間には、好きなタイプと好きではないタイプがどうしてもあります。けれどトップがそれを表立たせるのは危険です。ですから、人事の責任者が言わなくてはなりません。信頼されていないと言えないということもありますけども、それでも言わなくてはならない。社長とうまくいかないかもしれないということを気にしていたら、人事の責任者の仕事はできないですね。正直に言うことは、ちゃんと相手にも伝わるし理解してくれると思います。
人事という仕事は、社員だけでなく、その家族のことも考えなくてはならない。自分が折れたら誰も社員を守る人はいないという考えは絶えず持っています。そして人事というのは、企業で一番大切なものだとも思っています。人事に携わる人には、誇りを持ってほしいです。そして人事というのはあまり目立たない仕事ですので、自分が目立つことよりも、他の人たちが伸びることがうれしいという人が携わるべきだと思います。
今、「コミュニケーション」という言葉がよく使われます。コミュニケーションというのは非常に難しいし、落とし穴がある。失敗例がありまして、私、結婚して3年ぐらいテレビを買わなかったんです。テレビがすごく好きなので、あると見てしまうので良くないなと。それを義理の母が理解できなかったようで、ある日突然、電気屋さんを連れて家に来て、これつけなさいってテレビをつけていったんです(笑)。それからは食事のときもテレビをずっと見てまして。見ながらでも家内が話してることに返事をするんですけれども、あるとき家内がテレビを消して、「全然私の話を聴いてない。私が言ったことを全部言ってみなさい。」と言ってきたんです。私は彼女が話していたことを全部言えたのですが、家内はそれに対し、「心が全然入っていなかった。」と。「聴く」ということは、話している内容をただ聞くだけでなく、なぜそういうことを言っているのか考えながら「聴く」ことなのだと気づかされました。もう40年近く前のことですが、今でも忘れることはないですね。
そうですね、ただ聞くのではなく、「聴く」力がとても重要です。奥さんの話を聴くことができない人は、人事部長になれないと思います(笑)。時間というのは限られています。職場のケースでは、大体、本当に大きい問題を持ってくる人たちは一番忙しいときに急に来て、ちょっと遠藤さん時間もらえますかって。それを断っちゃうと大変なことになる。そういう時にわれわれ人事は、相手の顔を見て電話の声を聴いて、どれほどの危険性か、重要なものかを見分けなければならない。どうしても時間がないなら、あとで絶対時間を取るからと言えるゆとりがないと駄目なんです。あとはやはり自分の信念を持って考え方を伝えることが重要だと思います。
自分で何が正しいかを考えて、自分が納得できる信念を持つこと。そして人事のプロに一番要求されるのは人間味というか、信頼、信用できるかだと思います。ですから、どれくらい早く、相手とブリッジを作ることができるかも重要。そして謙虚でなければいけないと思います。決して傲慢にならない。そうでないと誰もついてこないですから。私も部下から学ぶことがたくさんあります。こちらが全然思ったことないことを言ってくれるんですよ。どうしてそう思わなかったのかなって。あらゆる意見を「聴く」ことができるように、いくつになっても頑固にならず受け入れる素直な心が必要なのだと思います。