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全国の人事パーソンへのメッセージ

人事部長の想い切りトーク

Vol022想い切りトーク

多様化する社員のライフスタイルにあわせ 就業の自由度を高めれば、究極、 人事制度はいらない。

取材日: 2017年6月29日

インタビュアー北澤 孝太郎

※会社名・役職等は取材当時の名称を掲載しております。

株式会社HDEは、クラウド・セキュリティサービスの「HDE One」や、法人向けのソフトウエア開発などを手掛けるIT企業。1996年の創業以来、7000社以上にサービスを提供、クラウド・セキュリティ分野で6年連続市場シェアNo.1を達成した。「テクノロジーの解放」をビジョンに掲げ躍進を続ける同社の、多様化する採用や雇用の「今」を人事部長の高橋 実氏にうかがった。

PROFILE原点は、インターネット黎明期の 新規ビジネス立ち上げ

一面のガラス窓からは渋谷の街並。受付を兼ねたオープンラウンジにはソファが並び開放的な空気が漂う。高橋さん自らが笑顔で出迎えてくれた。ふと見慣れぬ紫色の自動販売機に目がとまる。

  • これは世界に1台のドクターペッパーの自動販売機です。弊社の代表の小椋が、“優秀な技術者はドクターペッパーが好きなはず”という信念を持っていまして、社員もお客様も無料でお飲みいただけます。

  • 非常にユニークな取り組みですね。では私もドクターペッパーをいただきながらお話をうかがいましょう。高橋さんは新卒でJCBに入られたのですよね。

    はい、就活当時はバブルの時期だったので200社くらいの企業をまわりました。社会人の方たちの話を聞くのが、とにかく新鮮で。実は、金融業界には全く興味なかったのですが、たまたまJCBに先輩がいて、生き生き仕事をされていて、この会社だったら、自分自身楽しめるのではないかなと思いまして。

  • JCBではどういう仕事をされていたのですか。

    1年目は営業だったのですが、2年目からは企画部門、JCBのフランチャイジー会社の統括部門に配属されました。そのあと、新規事業開発の部署に声をかけていただいて。パソコンを触ったこともないのに、いきなりインターネットのビジネスを立ち上げることになって。いわゆるECのスタンダードの仕組みをつくりました。インターネット黎明期にこの経験を積めたことが、僕の原点かなと思います。

  • そして7年後に転職をされた。NTTファイナンスでも新規事業を手掛けられたようですが、いかがでしたか。

    クレジットカード事業の立ち上げに携わりました。面白かったですね。事業計画から戦略を考えて、実際にサービスをつくって、サービスインしていく。また、NTTという巨大な箱の、日本のスタンダードになっている組織のイロハを徹底的に学べたことが、すごく大きかったと思います。そういう大手企業での経験が自分自身の強みになっていて、今、自分がベンチャーでいられる最大のポイントだと思います。

  • HDEに入られるまでに、色々な会社で多様なご経験を積まれたんですね。

    僕自身の中では筋が決まっていて、転職に舵を切るのは卒業というか、今いる組織の箱の中ではやりたいことができないという所に行きついた結果なんです。他には、組織マネージャーとしてマネジメントを経験したのですが、一人ひとりのステージを全く見ずに、理詰めでマネジメントするタイプだったので“ツメツメ課長”というあだ名がついていました。一生懸命やっているつもりなのですが、自分には一生マネジメントが出来ないのではないか、と思ってしまったほどの失敗経験です。

  • それが人事に携わるようになったきっかけになった?

    人事は一番就きたくない仕事でしたので、まさに青天の霹靂でした。まず、人が人を評価するっていうことが全く理解できなかった。実際に携わってみると、人事は“終わりがない仕事”なんですね。俄然興味を持ちはじめました。

  • そしてHDEに人事責任者として入られた。キャリアに対してご自分の可能性が広がる方向に興味を持たれたのでしょうか。

    自分自身のキャリアというよりも、HDEという会社は当時創業17年で、同級生の楽天やYahoo!はものすごく大きくなって知名度も高いのに、まだあまり知られていない会社だと。ただ、話を聞いてみると、エンジニアはきわめて優秀だし、プロダクトも優れている。しかも、クライアントが7000社あって、たくさんの武器を持っているのに、うまく使うのが下手な会社、というのが僕の印象でした。もったいないな、と。

  • ご自身ならこうできる、というのが見えたわけですね。

    はい。もし、自分自身の力をお貸しできるのであればうまくいっていないところのチューニングができるのでは、と。もったいないものをもったいなくすることは、僕にとってはすごくチャレンジブルだし、そういう感覚でジョインしました。実は、経営陣3人と合宿させてくれ、というのを入社の条件にしまして。経営陣が何を考えているのか、組織や人材、事業に対する想いを聞きたかった。そのときに経営陣から出てきたのは、“今は中小企業だけと、このままいるつもりはない”という発言でした。どういう方向にベクトルが向いているかコミットできましたし、初めにたくさん議論ができたので、今でも軸はぶれていないと思います。

MISSION キーワードは“時間と場所にこだわらない働き方”

右肩上がりの成長を続けるHDE、常に求めているのは優秀な人材だ。グローバルでも積極的に採用をすすめるなか、ソフトウェアエンジニア向けインターンシップ、海外出張カバン持ちインターンシップ制度(役員や社員の海外出張に学生がインターンシップとして同行、ビジネスの実際の現場で就業を体験する)などユニークなプログラムを提供している。

  • 外国人採用も積極的にされていますね。また社内の公用語を英語にチェンジされた。

    雇用を確保するにしても、これから先、労働力人口が減少して、10年先の企業が確保すべき労働力を試算したら、間違いなく今やるべきことはグローバル採用です。僕は、HDEに入るまでは、正直、英語は全くできなかった人間なのですが、事業の将来的なことを考えれば、おのずから結論は出るはずです。グローバル採用では、日本語必須にはしていません。ベンダーサービスのマニュアルなどは英語ですし、いちいち通訳していたら間に合わない。だったら思い切って社内公用語も英語でいこうと。

  • 今の流れの中で、こういう施策だとか、こういうことを考えないと、日本が駄目なんになるのではないか?というようなお気持ちはありますか。

    一番大きいのは、雇用問題だと思っています。労働力人口が減少するなか、どのような打ち手に出るか考えることが一番重要だと思っています。今後はAIなどによって減る仕事減らない仕事両方が出てきますが、仕事を選ばなければ、絶対に職にあぶれることがない時代っていうのが、逆に来ると思うんです。ただ、果たしてそれで幸せかっていうと、それは間違いなく違っていて。現状でも仕事が楽しいと言える人って、なかなか少ないと思うんです。そうは言っても自分の人生を幸せにしたい、そのために仕事は必要なファクターなので、一番良いチョイスをして仕事に就いて、能力発揮して結果を出して、達成感を味わえることを社員が実現できること。そしてそれをいかにしてライフスタイルの中に組み込んであげるか。いろんなトランジションが人生の中であって、その時々で仕事の役割が変わってきます。社員一人ひとりがやりたいことと、その組織としてやりたいことは、必ずずれるので、改革することでずれを減らしていくことが重要だと思っています。

  • 一人ひとりが幸せになるとか、成長するよう働きかけるというスタンスをお持ちでいらっしゃるとのことですが、具体的にどういう方向に変えていきたいと思っておられますか。

    たとえばワーキングマザーは、育児と仕事、つまり仕事をダブルで抱えている状態なわけです。幼稚園、保育園から突然3時、4時に迎えの電話が来ることだってある。そのような場合、有給を時間単位で取得できるようにしました。また通勤時間がネックとなるワーキングマザーには、フル在宅で働いてもらっています。フレックスタイムも、3年前まではコアタイムがあったのですが、今はフルフレックスにしています。

  • 時短勤務、在宅勤務、これまでさまざまな改革をされてこられたのですね。

    僕、多分、一番会社の中で、就業規則の抜け穴を考えていると思います。たとえば“リモートワーク可”という就業規則はありません。就業規則上で、就業場所を規定していないということは、逆にどこでも働いてもいいはずという解釈の仕方です。もちろん、組織的に管理しなければいけないタイミングは来ると思いますが、今から就業規則をつくるというよりは自由度を高めてあげる。“時間と場所にこだわらない働き方”をキーワードに、拘束時間を減らして生産性を上げることに、今、徹底的に取り組んでいます。

  • ぎちぎちに縛るのではなく、自由度を上げる。社員の方は幸せですね。

    やはり社員が幸せになるためのルール化だと思っていて、それが企業としての義務、事業を継続するという意味では一番大きい。僕が人事にキャリアチェンジした理由の一つもそこです。問題意識を持っている人間がやらなければいけないことですし、自分は新規事業、事業側も知っているし、マネジメントの失敗体験もある。失敗体験、山ほどしているので、経験値としてはかなり持っているほうかなと。そういう人間が人事の中に入って、わかっている人間が何もやらなかったらそれはサボリでしかないので、これが自分自身の使命かなと思っています。

  • HDEへ転職するきっかけで“チューニング”という言葉がありました。今でもご自身の役割ですか?

    そうですね。経営陣と現場が同じことを考えているのが理想だと思うのですが、人間対人間なので必ずギャップが生まれる。そのずれが生じたときに、いかにその幅を減らしてあげるかというのが、僕自身の役割かなと。事業をドライブするのは現場のメンバーですし、社員それぞれ一人ひとりです。それをうまく適切なタイミングでチューニングしてあげる。僕の中では、いい人事の姿というのは、人事部門がなくなることではないかと。人事制度も、究極いらないものだと思っています。制度というのは、会社の中で生き生きと社員たちが仕事して、結果、事業としてプラスに働くっていうものをつくりあげるということです。誰がやったかわからないけれど、自然体でいい感じの会社になってくれていたと、経営や社員に感じてもらえるのが一番いいかなと思っています。

MESSAGE 人事は禅問答のような仕事。学び続けることが大切

  • これからの人事パーソンにはどういうようなスキルまたはマインドが必要でしょうか。

    やはり一番大きいのは、個々の現場の社員をきちんと見ておく、これは、ただ見るのではなく、いかに会話をするかということです。人事部長の肩書など取り払って、対話をするか。その人がどういう状態なのかを正しく把握して、適切に対応する。絶対に手を抜いてはいけないことだと思っています。

  • 能力という面では、どういうようなことを、人事パーソンは鍛えていけばいいでしょうか。

    経営戦略とマーケティング、この二つを理解している人事パーソンは極めて少ないと思います。組織の運営は三つの軸だと思っていまして、まずは経営戦略、またマーケティングでいかにセールスするか、そしてHR、この三つがきちんと輪になっている状況が必要だと思います。HRのことはよく知っていて勉強家が人事の方には多いのですが、致命的に足りていないのは、経営戦略をあなたは語れますか?ということです。それはマーケティングも同じです。

  • 何で稼いでいるか、ということですね。

    僕はうちの営業マンには「もし僕が本気になって営業入ったら、負けないよ」って話をしています。そのくらいマインドセットを持ってやらないといけないのではないかと。これは、教育プログラムにしろ、わからない人間にやられるのが、一番、人間、苦痛なので。わかっている人間から言われたら、仕方ないよねって話になる。それをいかにしてつくっていくかです。

  • 確かに、営業マンが何に悩むかとか、どういう能力が必要かわからなければ人事施策もとれませんよね。あと、習慣や心がけなど人事パーソンとしてやるべきだろうということは何でしょう。

    キーワードを挙げるとすると、学びですね。僕が人事になった理由の一つでもあるのですが、サービスは物や製品なので、終わりが見えるというか、大体計算できます。けれど人や組織は計算できない。変化していくしか答えがない、答えを見つけなければならない禅問答のような仕事なので、やはり学び続けていくことが大切だと思います。引き出しを山ほど持って、それを全部、フルセットで使えるぐらいの所まで、自分の足元でしっかりと改新していく。

  • ご自身の知識か、知恵かというふうに、情報を測っていかないといけないっていうことでしょうかね。

    そうですね。色々な情報が入ってくると思うので、アンテナは絶対高くしなければいけないのですが、それを自社の組織に置き換えたときに、何をやったらいいのか考えるだけではなく、実行してみる。実行力は、残念ながら日本のHRは、すごく弱いなという気持ちです。何かしらのエクスキューズを付けて、できない理由を探しているように僕には見えます。全社一丸でできなかったら、スモールスタートからやればいいし、あらゆるところに自分のアクションを起こせる場所はあるはずです。

  • アンテナを高く掲げて、自分に置き換えて実行する。

    また、人が学ぶときに一番大切なのは、適切なタイミングでインストールしてあげることです。本人のアンテナが立ってない以上は、逆に、やらされ感ばかりになってしまうので、そのタイミングを適切に計ってあげるのも重要ですね。僕が人事として一番気を遣っているのはそこで、いかにして本人のステージを見るか、これも自分には失敗体験があるのでわかるのですが、心を開くタイミングで、適切にインストールしてあげること。その心を開くタイミングがいつ来ているかというのを、しっかりと把握してあげることかなって思います。

  • 人に関わることだからこそ、というのがありますよね。そうしたことひとつひとつが人事パーソンの幸せにつながればいいですね。

プライベートでは“山ほどの社会活動”に携わっているという高橋氏。これからもトップスピードで走り続けながら、自由に、多様に、社員への想いに溢れた改革を推し進めていくのであろう。

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