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全国の人事パーソンへのメッセージ

人事部長の想い切りトーク

Vol021想い切りトーク

存在を認められ、期待される人事であれ

取材日: 2017年4月12日

インタビュアー北澤 孝太郎

※会社名・役職等は取材当時の名称を掲載しております。

臨床検査機器、検査用試薬、並びに関連ソフトウェアの開発・製造・販売を行い、血球計数、血液凝固、尿沈渣検査ではグローバルNo.1のシェアを確立しているシスメックス(株)。世界190カ国以上に事業を展開し、海外売上80%以上の日系グローバルメーカーである。昨年には米フォーブスが発表する「世界で最もイノベーティブな企業 日本部門」第2位に代表取締役会長兼社長である家次 恒氏が選出された。2018年、創業50年を迎える同社の人事施策や採用活動などを、人事本部長の安倍 浩司氏にうかがった。

PROFILEアメリカでの修羅場が人事パーソンとしての自信に

  • 安倍さんは大学を卒業後、藤沢薬品工業(現アステラス製薬)に入社されたわけですが、なぜ医薬品業界に興味を持たれたのですか?

    就職活動を行っていく中で、高齢化社会で成長する業界として、薬というキーワードにピンと来たんです。医薬品業界を調べてみますと、今でいうMR、営業はメーカーの中でも非常にきつい仕事だと。どうせ働くならしんどくても成長し活躍できる方が面白いと思いまして、製薬企業を回りました。

  • そして就職されてからは、しんどいと言われる営業を?

    はい。日本を代表する最高峰の大学病院を担当しました。知的水準の高い先生方から非常に学ぶことが多かったです。先生方に薬の説明をする必要があるので、文系出身者としては、相当勉強しました。

  • そして6年間営業を経験されたのち、人事部へ異動されましたね。

    当時、海外事業を本格的に展開していく中で、グローバルに活躍する人材を公募する制度があり、海外でマーケティングをやりたいとの思いから、入社3年目に応募して、幸いにも合格しましたが、実際の異動までは3年かかりました。異動内示を受けた際は、人事部?何でだろうと思いましたが、その当時私を人事パーソンとして育てていこうという評価があったようです。異動後、まずは人事制度の設計に携わることになりました。営業所の内勤者は嘱託社員なのですが、嘱託社員だとやはりモチベーションも上がらない。その人たちのモチベーションをどうしていくかを考えて、制度を一通り作り上げた。あとは営業経験もありましたので、営業のインセンティブの仕組みを考えたりもしていました。

  • その後アメリカの子会社に行かれていますね。何か転機になるようなことがあったのですか?

    人事部内で採用や研修など、領域が広がるに従って、やはり海外のマーケティングをやりたいという想いが強くなりました。短い間でしたが日本で海外マーケティングに携われるようになった後に、ある時、米国子会社の人事に空きができたと。マーケティングが楽しかったので、一度「考えます」と返事をしましたが、海外勤務できるチャンスは滅多にないし行ったもん勝ちやと(笑)。

  • なるほど。アメリカの子会社は日本とはかなり違いましたか?職務主義というか。

    そうですね。今でこそ当たり前に、コンピテンシー、職務給制度、確定拠出年金制度など耳にしますが、その頃の日本にはまだなくて。アメリカでは色々な先進的な取り組みを行っているから、勉強してこい、ということでした。学んできて、帰ってきたら、それを日本の人事制度にどうやって活かせるかを期待されていたと思います。

  • アメリカはカルチャーも違うでしょうし、何か印象的な出来事はありましたか。

    米国子会社のある事業部の採算がとれなくて、サードパーティーに売却することになったんです。その部門を担当していた副社長は現地の方で、売却=仕事がなくなってしまう。そこでリストラクチャリングの話になるわけです。

  • 日本でリストラという言葉が出だしたのは2000年ですから、それよりもまだ前の話ですよね。

    はい。現地の弁護士さんと一対一で、英語で、センシティブな内容を詰めなければいけない。きつかったです。辞める場合のパッケージ、降格するときの処遇、それに対して与えるインセンティブなどを作って。副社長に説明をしに行きました。もう必死でした。最終的には、副社長は社に残ることを意思決定しました。なぜそう決めたのか、彼が後日わざわざ話してくれたんです。「あの説明を君がしてくれたから。君が真剣になって、私のことも考えて説明してくれているのが伝わった」と。そのときの経験が、人事パーソンとしての自信になっていると思います。
    頻繁ではないんですが、彼とはその後もメールでやりとりしています。

  • そして帰国されてからも再び人事に?

    そうです。日本に戻った頃、グローバル競争に勝つために、分社、転籍の動きがありまして、「安倍君、アメリカで似たようなことやってきたよな。それ、やってくれ」と。800名ぐらいの方たちの分社転籍に関わりました。分社する部門長の方々との折衝過程で10キロくらい痩せました。その後は国際人事を担当して、グローバル人事ポリシーの構築や海外拠点の人事制度づくり、2005年の合併に向けてプロジェクトに参画していました。

  • そして合併を迎える前に、シスメックスへ転職されました。どういうきっかけだったのですか?

    当時、海外を経験している人事パーソンは日本ではまだ少なかったので、色々とお声がけいただいていました。そしてある方から、シスメックスのことを聞いて。調べてみると毎年2桁成長を続けていて、神戸にすごい会社があるんだなと。選考スピードも圧倒的に早く、こういう勢いのある会社に入ることで、グローバル人事や働き甲斐のある会社づくり等、何かいろんなことを実現できるんじゃないかと思ったんです。

MISSION 多様な人材の能力発揮を最大化するには

  • 日系のグローバルカンパニーであるシスメックスはどんな社風ですか?また大切にしている価値観や理念について教えてください。

    風土という意味では、持続的なエンゲージメントという指標があります。どういうことかというと、いわゆる「働きがいのある会社」モデルでも言われていることですが、まず信頼が上司部下間にあって、自分の仕事に誇りをもち、連帯感を得ることで、最も働きがい、生きがいを感じる職場になっていくということです。当社は2007年、グループ企業理念「Sysmex Way」と行動基準を制定しました。企業理念、行動基準に基づいて、本当に行動していくということ。「Sysmex Way」をより浸透させて、実践させていこうという取り組みを続けています。

シスメックスグループ 企業理念
  • これだけ成長を続けていると、常に人が足らず採用を続けているかと思いますが、「世界面接」「通年採用」などユニークな採用活動をされていますね。

    国内での新卒採用に関しては、日本人だけでなく、日本の大学、大学院への留学生も勿論採用していました。ただ、事業がここまでグローバル化する中で、真に優秀な人材の確保を考えた場合、ビジネスは英語で成り立ちますし、日本語や日本の文化を知っている必要はないわけで、インド、中国、香港など海外上位大学からのダイレクトリクルーティングも始めました。現在では新入社員の2割が外国籍です。
    また、事業が大きく成長し、新規分野への挑戦も継続的に実行していて、新卒採用者の配属だけではとても追いつかないので、10年以上前から、積極的に中途採用を行ってきました。現在の経営陣にも中途入社し、昇進してきたメンバーが多数います。公正な評価なので、中途入社者のハンデは一切なく、また定着率向上のため、受入研修の強化なども行ってきました。
    また当社は早い時期から海外展開を進めてきたこともあり、日本企業の中でも現地への権限委譲が比較的進んでいると思います。海外拠点のほぼすべてが現地化していまして、トップマネジメントもプロパー人材が担っています。海外で長く活躍してきた幹部がシスメックス本社の執行役員にもなっていて、いわゆる「ガラスの天井」がないことは、海外拠点のモチベーションにも繋がっていると思います。

  • グローバル人材以外にも、今までと違ってこういう人を採りたいといったことはございますか?

    特定分野で強みを持つとんがった人間を採っていきたいと考えています。弱みを減点するのではなく強みを見出し、強みを活かしてもらいたいとの思いです。採用面接の場面で、いいところを見付け出そうとすると、すぐには分からないです。やっぱり深く入り込んで話してみて、初めて強みが引き出せる。そういうことを通常のマネジメントの中でもして、強みを活かすってことが非常に大事だと思うんです。

  • 外国人、日本人の境なく、様々な強みを持った人材を採用されてきているんですね。ビジネスや人材が多様化すれば、人事制度なども見直し変えていくことになると思いますが、その柱として考えているものはありますか。

    採用、配置、評価、育成を連動した人材開発を柱に考えています。当社は成長に伴って、積極的に優秀な人材を採用してきました。今はグローバル事業を牽引できる優秀人材をどう育てていくのか、社員が活き活きと働ける環境整備が最優先事項です。2011年に行った人事制度全面改訂後は、人材を育成することに焦点を当て、人材開発体系を構築しました。人が育つってどういうことかを今一度、皆で繰り返しディスカッションして。これまでは研修は研修、異動は異動、昇格は昇格と、おのおのばらばらにやっていたんです。ただ、人が育つって、言葉にすれば当たり前なんですけれども、まず自分の強みがどこにあって、何が足りないかって、まず気付くということが大変重要ですよね。気付いたら自分で勉強しようとします。気付くための評価を行う、そして、異動、配置、ローテーション、研修を三位一体として回していきましょうという考え方で作り上げました。

  • 世の中は大きく変わりつつあります。将来に変革をもたらすような次世代の人材育成や採用について、取り組まれていることがあれば教えてください。

    多様性、ダイバーシティだと思います。それぞれに価値観がある中で、パフォーマンスを最大限生かせるような働き方、評価の仕組み、賃金体系。多様な人材の能力発揮を最大化できるよう、グローバルHRや働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョンなどの施策に取り組んでいます。

  • 日本の企業のダイバーシティは、外国人に焦点を絞りがちですが、そこだけに留まらず、例えばインセンティブを個性化する、といったような、様々な個性を持つ個人、それぞれが元気になるために何をするのかを考える必要があるんでしょうね。

    ペイ・フォー・ジョブ、ペイ・フォー・パフォーマンスという、仕事と成果で考えることは、決して間違ったことではないと思います。ただ成果というのは単なる結果だけではなくて、プロセスを見ることも必要です。何で見るのかという点でいくと、例えばコンピテンシーをきちんと見ていく。そういったことを整えずに、多様性を受容するような仕組みだけを取り入れたとしても、評価の際に混乱するのは容易に想像できます。体系化、一体化して作り上げていかないといけないと思っています。

MESSAGE 現場の事実から真相を知れ

  • 人事を長く経験されている安倍さんから、人事パーソンを目指す若者に対して、キャリアアップこうしていったら?とか、日本の人事はこうしてほしいなど、メッセージをうかがえれば。

    存在を期待され、価値ある人材・部門として認められる人事になれと。そもそも人事部門のステークホルダーは何を期待しているのか。それは当然経営層、部門長、一般従業員によって違います。
    経営者からの期待に資するためには、経営の視点で、戦略的な意思決定をアシストしなければなりません。次に事業を担う部門長には優秀な人材を採用して、育成して、配置する。その人たちがまた、さらに伸びるような施策を行う。またハラスメントやメンタルな問題で支障があるときには、コーチングという立場で入っていく。

  • 個々の期待に応え、正しい答えを出していく。

    それが多分、彼らが人事に期待していることです。一般従業員は、やはり公平公正ということが非常に重要だと思います。1本芯、柱を持って、その中で公平公正な対応を全従業員にしていくことです。何を求められるかをきちんと理解したうえで、それを正しく行っていく。私の中では、ずっとそう思って行動してきたつもりです。

  • なるほど。人事パーソンに対しては、たとえばこんな志を持て、というようなことはありますか。

    百聞は一見にしかず、というのは非常に大事だと思います。今、本当にネットで何でも情報を得られます。それこそ他社の情報も、本やネット情報からいくらでも入ってきます。それをそのまま信じて、あるいはそれが正だとして動くと、恐らく多くが自社にとって適切なものではないと思うんです。やはり常にアンテナを立てながら、会社の実態・事実を知り、現場の生の声を聞かないと。「ネットで調べました。こう書いてあります」となりがちですが、多くの事実がそうではありません。それをそのまま提案する、あるいは考えるというのは、違った結末に行くような気がします。

  • そうですね。会わないと話にならないことは山のようにありますから。

    特に若い人事パーソンにという意味では、思います。表面に出てくるのは一面であり、会社の状況、背景が違えば全然違うものなんです。

  • 真相を知れと。人事の仕事って、そういうものかもしれませんね。

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