全国の人事パーソンへのメッセージ
Vol019想い切りトーク
取材日: 2016年12月20日
※会社名・役職等は取材当時の名称を掲載しております。
官民協働でグローバル人材を育成する日本初のプロジェクトとして発足した「トビタテ!留学JAPAN」。新しい留学の仕組みと文化をつくり、2020年までに大学生の海外留学12万人(現状6万人)、高校生の海外留学6万人(現状3万人)への倍増を目標に掲げている。プロジェクトディレクターを務める船橋力氏にお話をうかがった。
商社に勤める父親の転勤に伴い、3歳から7歳までアルゼンチンのブエノスアイレスで、高校の3年間はブラジル・サンパウロのインターナショナルスクールで過ごした船橋氏。
「世界には色々な国があって、色々な人がいる。差別や偏見などマイノリティ体験もありましたが、社会問題に目が向くようになったのは、幼い頃の経験が大きいと思います。日本人は、違う生き方とか価値観、自分の活かしかたを知らない方が多いのかもしれません。それが今、もったいないと思えるのは、世界を肌で感じ見てきたからだと思います。」
高校卒業後は帰国し上智大学を卒業、伊藤忠商事株式会社に就職。海外でのODAプロジェクトを数多く手掛けてきた。そして2000年独立し、株式会社ウィル・シード設立。企業や学校向けの体験型・参加型の教育プログラムを提供するビジネスを構築した。
「日本人が越境した社会問題に興味を抱かないことに疑問を持っていて、学校教育を変えたかった。もっと世界に貢献できるのではないか、という思いもあり教育にシフトして、南北問題や戦争、環境問題がなぜ起きるかといった社会の構造をゲーム化して、興味をわかせるといった事業を展開していました。」
事業は順調、とはいえドメスティックな環境に身を置いて10年近くを過ごした船橋氏に大きな転機が訪れる。
「世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーに選ばれて、“ダボス会議”に参加しました。世界中から選出された40歳以下のリーダーが毎年100~150名集まり、議論を交わすのですが、各国のリーダーたちのディベート力、語学力、情報量、教養。全くついていけない自分に打ちひしがれました。それと同時に、日本のプレゼンスの低下に危機感を感じながらも、劇的な世界の変化や広がり、そしてこんなに面白くて優秀な人が世界にたくさんいるということに、ワクワクして。もともとソーシャルインパクトのある大きなことを志していたはずなのに、自分はこのままでいいのかという想いもありました。」
このダボス会議での衝撃が、世界を知り世界へと発信していく重要性を再認識することとなり、「トビタテ!留学JAPAN」プロジェクト推進へと繋がっていく。
「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」は、官民連携でグローバル人材を育成する日本初のプロジェクトとして2014年に発足。新しい留学支援の仕組みと文化をつくり、2020年までに日本人留学生の数を倍増することを目標に掲げている。ソフトバンクや三菱商事をはじめ多数の大手企業が賛同、見込寄付額は110億円を突破、留学者数は2年前に比べて1.3倍に増加するなど、躍動感あふれる官民協働プロジェクトとして注目を集めている。
「留学が当たり前の文化をつくろう、留学を定着化させよう、というのがこのプロジェクトの課題です。立ち上げ前に当時の大臣に呼ばれて、とにかく意欲のある若者を少しでも多く、海外に出す必要性を話しました。中途半端にならないためには官民協働で、2020年までに200億円の寄付を集めて1万人の日本代表を出そうという話で盛り上がりまして。企業のトップ何十人にヒアリングしたり、閣議決定に盛り込んだりと進めてきて、ようやく3年目を迎えました。」
「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」では留学希望者自らが留学計画を企画立案し、熱意や好奇心、独自性を観点に選考される。留学前には事前研修を行い、計画のブラッシュアップを行うとともに、海外で視野を広げるための処方箋を調合する。帰国後は事後研修で、あなたは次に何をしていくのか?を問い視座を上げていく。
「日本のことを知らなさすぎてショックを受けて帰ってくる子、自信喪失して帰ってくる子、自信満々になり過ぎて帰ってくる子、変わらない子、それぞれなので地ならしも必要です。彼らの役割は大きく3つあります。リーダーを目指すこと。アンバサダーとして海外に日本を発信すること。そしてエバンジェリスト・伝道師として自分の体験を伝えるということです。」
具体的にはどんなグローバル人材を育成しようとしているのか。
「一番根源的に必要だと思っているのは、独自性です。“Think Globally Act Locally”とよく言っているのですが、Act Locallyというのは“あなたの領域を持て”という意味でも使っています。海外でダイバーシティを肌で感じ、自分は誰なんだということを突き詰めて発信していかなければ、企業や人を動かす人間にはなれません。そして“100万分のオンリーワンかナンバーワンになりなさい”ということです。100万分の1って大変そうに思えますけれど、100分の1を3つ持てば100万分の1になります。自分で道を切り開いていくすべを持っていなければ、生き抜いていけない時代なのです。」
ダイバーシティの重要性が説かれるなか、留学経験のある人材の活用にはまだまだ課題があるようだ。
「特に、4年間海外進学した学生に対しては、自己主張が激しく社風に合わない、と歓迎しない企業もままあるようです。日本の大学等から1年程度、交換留学をするケースに関しては、帰国時期が最終学年の夏となる場合、選考を夏に終わらせる一部の企業の説明会や面接などの機会を逃すことを懸念する学生は多い。ゆっくり就活するには、1年留年して遅らせればいいが、まだ、特に地方では留年に抵抗があるようです。ただ、1年や2年のイヤーギャップがあっても、貴重な体験をした人材のほうがいいに決まっているという企業も増えてきている。まずは企業の人事の方が、グローバル化してほしいと思います。海外研修や、ダイバーシティに触れる、変化を感じること。自ら率先して飛び込んでいただきたい。」
また “外向き”の若者と “内向き”の若者、世代の二極化が進むなか、ひとくくりで若者をとらえること、決まった人材育成、評価システムにあてはめることが、彼らの才能や可能性や未来を潰す可能性を懸念する。
「人事制度等の具体的な各論に入ってしまうと、公平性に偏ってしまい、評価を管理するツールになってしまうのでしょうね。ひとくくりにする教育やシステムではなく、才能や、やる気を発掘して活かすツールになっていってほしい。一部でもいいから、給与体系や採用、評価システムを変えてみる。「トビタテ!」でも3割は遊び、もともとの目的とずれたことをやりなさいって言っています。人生と同じで遊びがあった方がいいんです。」
最後に、人事パーソンに向けたメッセージを聞いた。
「これはグローバル・リーダーになるためのキーワードでもあるのですが、大切なのはイニシアチブ、ダイアログ、コラボレーション、この3つです。イニシアチブを持って行動することで身につくし、へこたれない。ダイアログはまさに対話、自己開示です。自己をさらけ出すことで瞬時に心が開かれるし、本音が引き出せる。最後にコラボレーション。当たり前のように言いますけど、一人ひとりが際立った独自性、専門性がないとコラボレーションはおきません。変化を怖がらず、本当に会社のため、社員のためになっているのか。そこにフォーカスを当てて考えることが大切なのだと思います。」