全国の人事パーソンへのメッセージ
Vol018想い切りトーク
取材日: 2016年10月7日
※会社名・役職等は取材当時の名称を掲載しております。
世界の空港や街角で見かける、赤いロゴが描かれた印象的な黄色いボディ。「DHL」は国際航空貨物輸送、海上輸送および国際陸上輸送そして倉庫管理運営・国内配送等のサービスを行う国際輸送物流会社だ。ドイツを本社に事業展開する国や地域は220以上にもおよび、そのDHLのひとつのビジネスユニットである、倉庫管理運営・国内配送サービスを提供するDHLサプライチェーンの日本法人で、人事総務部長を務める石井秀樹氏にうかがった。
中学生のころからはビートルズに傾倒、ハリウッド映画にも夢中になり映画館へ通いつめた。そこから英語、海外への興味が生まれた。
大学は経営学部、ゼミではイギリスの労働経済学や労務管理を学んだ。
「人事に繋がる勉強をしていましたが、英語を使う海外営業への憧れが強かった。人事が自分に本当に合うのか悩んで、ゼミの教授に相談したところ『君は人事が向いている』と背中を押されて。」
卒業後、人事でも海外に行くチャンスがあると期待し、ソニーに就職。国内最大の製造工場で人事労務を経験し、その後本社へ。
「勤労部厚生課という部署で、福利厚生に携わりました。ソニーグループのクレジットカードを企画制作して、店舗に交渉に行くなど、プロモーションのような活動もしました。人と接すること、喜ばせることが好きなんです。」
そして入社から9年後、アメリカのサンディエゴに赴任が決まる。
「米国内のR&Dや、インターナショナル人事として赴任者管理や日本からの事業部移管サポートなどを担当しました。サンディエゴはテレコムバレーともいわれ、通信系のベンチャー企業がたくさんあり、ソニー創業当時のスピリットはまさにこうなのではないかと。非常に刺激を受けましたし、価値観の多様性というものを肌で体感しました。」
帰国後は放送機器・業務用機器カンパニーでの人事マネージャーを経て、情報システム部の人事責任者を担当。
「情報システム部は、経営企画の情報システムセクションという位置づけです。システムが要だからということで、当時の社長肝いりの部署でした。アプリケーションやインフラ系の技術者、プロジェクトマネージャーなどの人財をモデリングして、スキルマップをつくって育成を図る。またコンサルティングファームの買収もありましたので、買収した人財の強化にも注力しました。」
そして、入社25年目にしてアメリカに本社を置くオーウェンスコーニングジャパンに転職。
「縁あってお声がけいただき転職しました。アメリカの会社と日本のドメスティックな工場をブリッジしながら事業拡大を手掛ける役割は、海外での経験と人事の知識が活かせますし、面白そうなチャレンジだなと感じたからです。」
オーウェンスコーニングジャパンにて買収2件、事業譲渡2件、工場閉鎖1件に携わったのち2013年、DHLサプライチェーン株式会社に入社。
「DHLでの最大のテーマのひとつは『社員のエンゲージメントをどう高めていくか』。私は『ワクワク度』といっているのですが、社員一人ひとりがいきいきとしている状態です。会社を成長させるのは報酬や人事制度だけではなく、社員がオーナーシップを持つことです。社員のエンゲージメントが上がると会社の生産性、売上利益があがって、結果的にお客様のエンゲージメントも上がります。」
DHLでは毎年、Employee Opinion Surveyを、全世界50万人の社員全員に実施している。結果を分析し、アクションプランを構築、ワークショップの実施や「DHLって違うな」と思ってもらえる機会を増やしていく。
「人事のメンバーが現場に行くにしても、一人ひとりがいきいきとして接するようになれば、社員は感化されるわけです。先日内定式を行いましたが、みんなでハイタッチをやりました。目を見てハイタッチ、そこがまずスタートです。」
そして人事パーソンに欠かせないのは、「自分の付加価値」を常に自問自答することだと石井氏は言う。
「昔の人事は役所と似ています。役所は担当官が横柄な態度でも、そこでしか手続きできないから行くしかない。人事も各種手続きをするのに人事に提出するしかなく社員には選択肢がない。同じ会社のメンバーでありながら、気が付いたら官僚的になって、孤立しガラパゴス化した人事になってしまいかねない。」
そこで大切になってくるのがコミュニケーション。
「YES/BUTが大切です。プロモーション、昇給、組織変更などの相談がきてNOって言われたら気分を害しますよね。同じNOでも、まず基本はYESと。ビジネスをサポートするのが今の人事の役割ですので、ビジネスをより競争力のあるものにする、成長させていくことが前提の相談であればまずはYesです。そこから会話が始まり、何を実現したいかを聴いたうえで人事からソリューションを提供します。」
人事はコストセンターであり、プロフィットセンターではない。だからこそ自分のバリューを高める必要がある。
「究極の話、実務だけなら人事部はなくてもいい。給与計算などのバックオフィス業務はアウトソーシングを活用して、ビジネスに直結する戦略的な人事部を新たに作り出す。人事はHRビジネスパートナーと呼ばれますが、まさに、ビジネスのパートナーになるということ、それが人事部のバリューです。適切な人財を採用し、育成し、組織変革をドライブしていく。会社の戦略と連携して計画的、戦略的にタレントマネジメントを実行していく。トップから現場の社員ひとりひとりが、より能動的に先をみて考えて行動できるような組織開発、人材開発を実行していくこと、かつその社員が他社から声がかかってもやめたくないような仕組みをつくっていく。ビジネスとしてどれだけ価値があるかなんです。」
これまで永きに渡り、人事のプロフェッショナルとして第一線で活躍を続けてきた石井氏。「人事として重要なこととしては3つある。1つは人事としてのテクニカルな部分。どのような人事業務においても、専門性を持つことは非常に重要です。2つめはビジネスの理解、洞察力。人事のエキスパートであると同時に、ビジネスを成長させるために人事がどうすればよいのかを考えられること。そして3つめはコミュニケーション。信頼関係を築くことです。それは飲みに行けばいいという単純な話ではありません。相手を知ること、それ以上に自分を知ってもらうことから始まります。」
そして、実務とマネジメント、どちらを求められたとしても自信を持って遂行できることは大切だという。
「会社をやめて転職するかもしれないし、あるいは会社が潰れるかもしれない。キャリアプランをライフプランの中でとらえ、自分の人生は自分でコントロールする気持ちが大切で、そのためにも自身のスキルとリーダーシップ能力が重要です。」
石井氏のデスクには弥勒菩薩の写真がおいてあり、自分の言動がフェアかどうか常に対話をしているという。
「人事は強い倫理観というのが一番重要だと思っています。人事の責任者という権限、責任のジャケットを着て仕事をしているのであり、私が責任、権限をもっているわけではありません。従ってもうひとつ重要なのは謙虚さ。最終的には人間と人間の付き合いです。感謝の気持ちを忘れないことだと思います。」