全国の人事パーソンへのメッセージ
Vol015想い切りトーク
取材日: 2016年6月16日
※会社名・役職等は取材当時の名称を掲載しております。
シェアNo.1法人向けクラウド名刺管理サービス『Sansan』、個人向け名刺アプリ『Eight』を開発・展開するSansan株式会社。俳優の松重豊氏が「早く言ってよ~。」とつぶやくユニークなCMでもおなじみだ。2007年の創業以来成長を続けるSansanに浸透する企業理念、そして課題解決の施策として生まれる人事制度など、成長の秘密を聞いた。
インタビューが行われたのは、Sansan株式会社のフリースペース『Garden』。
窓の外にはパノラマに広がる青山の街並みと高層ビル群。室内には世界中から集められた不思議な植物が生い茂り、天井からはハンモックが吊るされている。
スペース中央にある2台のモニターには、徳島県神山町にある古民家を改築したサテライトオフィス『Sansan神山ラボ』の風景が生中継され、画面の向こうで澄んだ空気が揺れる。
「Sansan神山ラボには2人のエンジニアが駐在しています。ブロードバンドも充実しているので、静かな環境で自分のペースで集中して仕事ができます。」
そう話すのは角川 素久(つのかわ もとひさ)氏。Sansan株式会社の人事部長として採用や人事制度を取り仕切るだけでなく、CWO(チーフ・ワークスタイル・オフィサー)として「転地効果」を取り入れたオフィスデザイン、Sansan神山ラボなどを担当する「働き方の最高責任者」でもある。
角川氏は大学卒業後、三井物産グループの、株式会社もしもしホットライン(現りらいあコミュニケーションズ株式会社)に入社。黎明期のテレマーケティング業界で、現場のオペレーションをはじめ、営業、経営企画、経理、システムまで、様々な業務を経験した。
「入社して8年目、30歳になった頃。仕事にも慣れてきて、いろいろなことができるようになってきて、100%の力を出さなくても、仕事がこなせて、そこそこ評価されてしまう。このままだと“ゆでガエル”になるな、と思いました。そんな時に寺田と再会しました。」
Sansan株式会社 代表取締役社長の寺田 親弘氏は、角川氏の大学、学部の同窓。三井物産を辞め起業の準備をしていた寺田氏は、角川氏を創業メンバーに誘う。
「“成長しないことがリスクだ”という感覚はその頃からありました。大企業でさえも、いつ潰れるかわからない時代でしたから、ゼロから自分で立ち上がる力を身につけることが必要だと感じていました。そのためには、会社を創るのはまたとない経験になるだろうと。」
寺田氏を通じて集まったメンバーは寺田氏を入れて5名、4人はほぼ初対面、2007年のことだ。
「“はじめまして”の挨拶からの、スタートでした。私の役割は、開発と営業以外の“全部”。オールラウンドに働いてきた前職のスキルが非常に役立ちました。その役割は、人事部長として、今も続いています。」
“名刺を組織で管理して、データをビジネスに活用する”という構想は、寺田氏が社会人1年目のころから温めてきたアイディアだという。ビジネスモデルはある、次に何が必要か。
「まずは、企業理念が必要だと、創業の1ヶ月前に5人で2泊の合宿をしました。法人というのは目に見えないから、自分たちの言葉で『カタチ』を創ろうと、考えぬき、出来上がった企業理念が『Sansanのカタチ』(Ver.1)です。」
『Sansanのカタチ』は、企業理念としてビジネスモデルを牽引していく時もあれば、逆にビジネスの変化に応じ、変わりもする。社員も議論にまきこみながら、変遷を重ね、現在はVer.3.1に進化している。Sansanのカルチャーを強く体現し、社員の情熱のベクトルを同じ方向に向けるための、確かな指針となっている。現在も、次のVer.の『Sansanのカタチ』について、全社の社員とともに議論を重ねている最中だという。
『Sansanのカタチ』携帯用カード
ネームカードホルダーの裏側には『Sansanのカタチ』カードが入れられ、社員は常に携帯し行動指針としている。特にValuesの内容は、部下とのOne on Oneなどで“日常使い”されていると角川氏は話す。
採用について、角川氏の考えを聞いた。
「やはり入口が一番重要だと思います。入口を失敗すると、あとで何倍もコストがかかることになる。だから、どんなに会社が大きくなっても入口を緩めてはいけないと心がけています。
Sansanのミッションや価値観に共感してくれる人を採れるように、心と心で向き合い、本音で語り、その人の価値観がSansanと合うかどうか、我々も、候補者も、十分に納得した上で決めてもらう、そんな姿勢で採用に臨んでいます。」
入社する人は“わざわざSansanを選んできた人”が多い。給料が高いからなどではなく、『世界を変える新たな価値を生み出す』という企業のビジョンに共感して、世の中にないものをつくりたい、世の中に変化を生み出したいという思いを持ってくると角川氏。
今、角川氏が特に注力している採用課題の1つはエンジニアの採用である。
「“名刺”のイメージから、どうしても営業よりの会社と思われがちですが、メインは“ものづくり”です。優秀なエンジニアをもっと増やしていきたいです。技術者が生き生きと働けて、実力を思う存分発揮できる環境を創ることをいつも考えています。」
評価制度には、Googleで採用されているOKR(Objective and Key Result)を導入、コーチングにも力を入れている。資格を持つ社員が社内コーチとして常駐するだけでなく、外部からもプロのコーチを招く。営業もエンジニアも社員が心地よく働けて、強みを活かせるようにと、人事の取組みは幅広い。他社の人事との情報共有も大切にしている。
「でも、やっぱり自分の会社らしい事をしないとだめですね。他社の施策やシステムを、そのまま入れてもダメ。自分たちのカルチャーとか、これまでの経緯とか、社長の想いとか、自分たちの会社らしいカタチに落とし込んでいく。
結局、“落とし込み力”が大事なんです。」
「Sansanの社員って、中途で入ってきた人が驚くほど、ホントにみんな一生懸命働いています。基本、モーレツな会社ですから、目標も高いし、仕事は厳しいです。もはやそれが、Sansanの風土やカルチャーかもしれません。」
ある時 “結婚、出産してもSansanで働き続けられるのだろうか”という女性社員からの不安の声が、ちらほら角川氏のもとに聞こえてきた。
「それを寺田に話したら、驚いて…社長が驚いたことに、私は驚いたんですけれどね(笑)」
経験があって有能な女性社員に辞めて欲しくないと、社員と契約社員の中間のような安心して働き続けられる、新たな契約区分を創っていこうとすぐに動き出しているという。このようなフレキシブルなトップダウンの動きもSansanの強みだと角川氏は話す。
Sansanは、非常にユニークな人事制度でも知られる。たとえば、『Know me!(のーみー)』は、他部署で過去に飲んだことがない人と(3名まで)飲みに行ったら、会社から1人につき3,000円を補助する制度。『テランチ』は、社長(寺田氏)と社員が1対1でランチする制度、普通に社員のスケジュールに組み込まれるそうだ。『強マッチ』は、社員一人ひとりの「強み」のワークショップを実施する制度。他にも人事制度は多岐にわたる。キャッチーなネーミングは、制度の使いやすさにもつながっている。
「人事制度の開発は、課題解決の手段ですね。役員会議で枠組みと、ネーミングまで決めます。細かな運用は僕の方で考えることが多いですが、“Sansanらしい”ということを大切にしています。」
5名でのスタートから10年、現在社員は250名。法人向けクラウド名刺管理サービス『Sansan』の導入企業は4,000社を超え、個人向け名刺アプリ『Eight』は100万人以上のユーザーが利用するアプリケーションへと成長した。
企業成長のターニングポイントは?との質問に、角川氏はこう答える。
「ターニングポイントですか?まだ感じた事はないですね。今まで、1社1社実績を積み上げて、一次関数的に伸びている会社なので。僕たちとしては、変わらず、一生懸命に船を漕いでいる感覚です。帆を押してくれる追い風が吹いているとは、思っていません。だから、まだまだ、漕ぐ手は止められませんね。」