全国の人事パーソンへのメッセージ
Vol014想い切りトーク
取材日: 2016年4月14日
※会社名・役職等は取材当時の名称を掲載しております。
1996年の創業以来、日本のインターネット業界の老舗として、検索サイトからスタートし、今では100以上のサービスを提供するヤフー株式会社。2012年の新体制スタートから4年、「爆速経営」の名の通り爆速で変化を続けてきた。2016年、創業20年を迎え、新ビジョン「UPDATE JAPAN」を掲げ、次の20年を見すえた「技術のヤフー」を目指す。それを支える人事の役割とは。
「これは何だ!?という衝撃でした。」
前職で初めてインターネットに接した斎藤氏は、その可能性を直感し、インターネット業界への転職を決意する。1999年に、設立4年目、社員数100名規模のヤフー株式会社に転職した。当時は「そんな怪しい業界に転職して大丈夫なの」と、友人から心配されたと笑う。入社まもなく、総務部から人事部へ。
「管理職にだけは、なりたくないと思っていました。人の評価なんて絶対にやりたくないし、面倒くさいことだらけだろうと。」
上司の打診を断わりながらも、皆で食事に行った際に、当時の社長が言った「管理職になって損をすることはないよ」との言葉に背中を押されリーダーに。いざ管理職になってみると、自分の意思でものごとが進捗することが楽しかった、とリーダー時代を振り返る斎藤氏。
その後、出産や育児を経験しながら、インターネットの普及とともにスピード成長を続けるヤフーに並走し、人事として幅広い業務を経験してきた。また、子どもを持つ社員のコミュニケーションを促す「パパママサポーター制度」の導入など、企業文化の醸成にも大きく関わっている。ちなみに、2016年4月時点でのヤフーの女性管理職人数は189人、産休・育休後の復職率は97.2%(2015年度)。現在、本部長として直属の部下は30名を超し、プライベートでも2児の母である斎藤氏に、両立の秘訣を聞いた。
「失敗だらけです。他人と比較して、夜中に子供の寝顔をみながらメソメソした時も。しいて言えば、『覚悟』ですかね。制約が多い人ほど、仕事と時間に向き合わなければならないので、自分なりの型や『ルール』を持っていると思います。」
斎藤氏が仕事で心がけているルールは「会議から会話へ」「検討から決断へ」「管理から委譲へ」の3つ。
「歩きながらでも話しをします。『決めて欲しいのか?相談したいのか?』を確認し、即断できるものはその場で決めるように心がけています。『検討します』と先延ばしにはしません。方向性やビジョンが共有できていて、委譲できると判断したものは『わかった、まかせる』とチームメンバーへ。『もしも、何か迷ったらあの人に聞いてみて』と、相談先もつけます。部下それぞれの強みによって、そのほうがいいものができることが多いという事も実感しています。」
新経営体制スタートの2012年、ヤフーは15年連続の増益増収を記録していた。しかし、宮坂社長は変革を始める。キーワードは「スマホファースト」。事業の中心をパソコンからスマートフォンにシフトさせると宣言した。
「当時、宮坂は“脱皮しない蛇は死ぬ”という表現を使い、自分たちの内なる力で変化して脱皮していかない限り明日はない、社員の内なる情熱に火をつけて、同じ船に乗って一緒に変わろう、変えていこうと話していました。」
5,000人の社員が才能と情熱を解き放ち、それぞれの持つ力を最大限に発揮できる環境にするために「ヤフーバリュー」が作成された。それは、ヤフー社員の行動規範であり、“何のために、いかに仕事をすべきか”を明確にする軸となる。『課題解決って、楽しい』『爆速って、楽しい』『フォーカスって、楽しい』『ワイルドって、楽しい』の、4つの「ヤフーバリュー」を軸に、まさに爆速での組織改革が行われた。
「“爆速”や“ワイルド”など、刺激的なワードを具体的に人事制度に結び付けていくことはとてもチャレンジングでした。新体制になってすぐは、1ヶ月に700人の研修を実施するスピードで展開していきました。」
新体制以降、さまざまな人事施策を実施してきたが、その中核となったのが、上司と部下が週1回、30分程度面談する「1on1 ミーティング」。このミーティングは、部下のための時間で、業務推進上の課題や3年後にどうなっていたいか、そのために今何をすべきかを話す。
しかし、「1on1 ミーティング」で部下と話をしろと言われても、やり方が分からない上司。様々なコンフリクトの中で、ある程度強制的に、コーチングの手法を学んでもらい、同時にメンバーには、フォロアーシップ研修を実施していった。
ヤフーでは、役職は「配役」と考える。ヤフー人事のコアコンセプトである、部下の“才能と情熱を解き放つ”、それができる人に役職を「配役」し、できない人には、その分野のプロフェッショナルとして、別の役割を担ってもらう。
「当時、反発がなかったかと言えば嘘になり、生々しいビジネスの場だったと思います。人事としても非常にタフな時期でした。」
人事制度も一新した。「ヤフーバリュー」を盛り込み、上司も部下から行動評価をされる「バリュー評価(多面評価)」、自己申告型の異動制度「ジョブチェン」、他部署の上司が部下の声を聞き、彼らの上司にフィードバックする「ななめ会議」など、他にも数々の画期的な制度がスタートした。
2016年、創業20周年を迎えたヤフーは新ビジョンに「UPDATE JAPAN」を掲げる。
「『課題解決エンジン』というヤフーの『使命』は変わりませんが、これまで蓄積してきた膨大なデータを技術で『宝』に変え、価値ある『もの作り』につなげていきたいと考えています。その結果として、日本がアップデート(変革)されたという状態を目指します。」
そのための人財開発も人事の重要なミッション。現在、中国やインドでのグローバル採用や、社会人ドクター進学支援、博士初任給設定、特任研究員採用など、積極的に戦略的採用も進めている。
「ヤフーでは、人間というのは才能と情熱が溢れていて、昨日の自分より今日の自分は成長していたいという思いを持っている、ということを前提にしています。」
“いわゆる優秀な人”だけでは、画一的な組織になってしまい、イノベーションはおきないと斎藤氏。
「少し違う観点や、異論をとなえる人も必要。歴史を見ても、その時は風変わりな意見とされていたものが、後になって実は正しかったりする。新体制になったあたりから、そういうひとりひとりを大切にすることに着目しました。本人の才能と情熱をきちんとくみとることができれば、会社がやってほしいことと、本人のやりたいことが、少しくらいずれていても、会社の推進力は増すことを感じています。」
人事の仕事は答えがないから面白いと思っていたが、いまや人を扱う仕事にも『答えがある、答えをださなければならない』時代になってきている。しっかりとした思考フレームやロジックを持った上でデータを捉え、仮説を立てて、答えが明らかになるまで執念をもってじっくり観察をする。トップに答えを求めるのではなく、トップに決めてもらえるような提示をするべきと斎藤氏。
「難しいけど面白い時代に入ってきているのかもしれない、これからは、人事パーソンにこそ、技術的な趣向や、分析する執念が必要なのかなって思います。
私の上司は、うまくいった仕事について『なぜうまくいったの?』と、とことん質問します。『たまたまラッキーでした』というのは許されません。『その裏にもうひとつ何か要因があるはずだから、よく内省して。』と徹底的に考えさせられます。プロセスから原理原則を見出して、再現性のある行動基準を築いていく、これこそサイエンスだと思います。
私も今年の4月から東京理科大学大学院で技術経営(MOT)を学んでいます。エンジニアのリーダーシップやモチベーションを研究する予定です。」
「『人を育てることと、強い組織づくりはあの人にお願いするといいよ』って言ってもらえるような人事パーソンになりたいと思っています。」