全国の人事パーソンへのメッセージ
Vol011想い切りトーク
取材日: 2016年1月13日
※会社名・役職等は取材当時の名称を掲載しております。
1984年ユニクロ1号店開店、2001年海外初の店舗をロンドンにオープンし、いまや国内844店舗、海外864店舗のユニクロに他ブランド1,362店舗を加え、全3,070店舗を展開するファーストリテイリンググループ。グローバルNo.1のアパレル小売業を目指し、成長のベクトルは世界に向けられている。そのグローバル展開を人事面から支える人事部 部長 中西一統氏に今後の戦略を聞いた。(※店舗数は2015年11月末現在)
タイトルは、中西氏の就活における条件である。今でも“メーカー”の商売の仕組みが好きだという中西氏は、意外にも“終身雇用”を希望していたという。90年代後半の日本社会の動向から、“グローバル”は必須条件として加えたと話す。
「ただ、当時は英語が嫌いでしたから、英語ができなくてもグローバルな仕事ができる会社を探しました(笑)。それで、かつ終身雇用を希望していたんですから、何も分かっていない、ダメな学生ですよね。」
結果、外資とは思わずに誤って資料請求はがきを送った、P&Gに入社することとなる。
「当時は、自分でもびっくりするくらい英語ができなくて、外国人との仕事で筆談まじりの打合せをしたら『なぜ英語のできない新人をよこすんだ!』と、早速上司にクレームが入ったりしました。」
しかし一方で、入社半年余りで「採用を全てWEB化する」という、大胆で斬新な企画をつくり、進めて行くことになる。
「当時、日本の採用市場でP&Gはそこまで知名度が高くありませんでした。日本がグローバルP&Gの中で模範となり、人材輸出国になるためには、No.1の採用力を持った企業にならないといけない。これからは、まちがいなくWEBが次の時流を取っていく。その“先行者利益”を取りに行くのか、行かないのか、と問いかけて、OKを出してもらいました。」
仕事を通じて、英語環境に浸りながら、英語力も確実に身につけていった。先輩や同僚にも恵まれ、今でも大好きだというその会社で、中西氏の気持ちが揺れはじめたのは、人事の様々なプロジェクトでキャリアを積み、入社8年目を過ぎた頃。日本と韓国の人材開発責任者を引き受けてからだった。
「日本のプレゼンスや日本への期待の低下を肌で感じ、何もしなければ、未来もずっと下がり続けていくことを確信しました。一方で、日本という国の、また日本人の自力と可能性を信じていました。」
いつかは世界最高峰の外資企業での経験を、日本のために活かしたいと思い始めた頃、偶然にもグリーと出会う。モバイル・インターネット業界に興味や期待もあったが、なによりも日本企業として世界で戦おうという勢いに、一肌脱ごうと転職を決めた。人事責任者として、100名程だった組織を4年程で、10カ国、2,000名以上に拡大させた。
史上稀にみる急成長と事業環境の変化の中、本当におもしろい経験が出来たと振り返る。事業成長戦略の変更で、組織の再構築が必要となり、自身が採用をし、一緒に今をつくってきた人材に厳しい決断を迫ることも実行した。その中で、自身のキャリアの転換期であることを感じた中西氏は、いろいろ考えた上で、やはり日本、グローバルというところにこだわった。
「日本発、本気でグローバルでNo.1になろうとしている企業だった。それに、最終消費財っておもしろいなと…。友達から商品に関するフィードバックがもらえたり、お店で商品を選んでいる人の、家族の表情が幸せそうだったり、そういう事が僕にとっては純粋に楽しかった。」
2014年1月、海外展開を開始したばかりのGUの人事責任者として、ファーストリテイリングに入社。同年8月に、株式会社ファーストリテイリング 人事部 採用部長となり、グロ―バルな人材の採用と育成に挑んでいる。
「身近なだけに、小売業はどうしても先入観を持たれやすい。ユニクロに行ったことのある学生は、店舗や店員の働く様子を見て、なんとなく『ユニクロの仕事』を分かったつもりになってしまう。『ユニクロで働くって、店頭で物を売るんでしょ?』って(笑)。でも、それは仕事の一部で、僕らの仕事の本当の可能性だとか、本当のおもしろさを解ってもらいたい。」
そのための試みは始まっている。海外インターンシップ「Global Study Program」もその1つである。参加者はロンドン、メルボルン、上海、台北、シンガポールのいずれかで、現地の経営者が実際に直面する課題をヒアリングし、就業体験や現地調査を通して、その解決策を提案する。異なる文化や価値観が交錯するグローバルな現場でビジネスを体験してもらい、その難しさやおもしろさを肌で感じてもらう。それが、ファーストリテイリングで働くことの『魅力』を知ってもらう近道だと中西氏は話す。
すでに、海外で働いている社員は約400人。20-30代前半の赴任者も多く、店長、エリアマネージャー等現場に入り込んで、現地の社員と一緒に商売をつくる醍醐味、人を採用し、育成し、お店を作りあげていく経験をしている。取材をした東京本部の広大なロビーにも打合せをする多国籍の社員が目立つ。
「たとえば、世界中のユニクロやGUの店舗は常に整理整頓されている。また、普段店員はお客様にマンツーマンで接客するのではなく、自由にお買い物を楽しんでもらう、お客様から声をかけられたらきめ細かく対応する。商品力もそう、最高品質を適正価格で提供すること。これらはどれも、とても日本的なんですよね。」
日本にいると気づきにくいが、ファーストリテイリングのサービスのノウハウには、日本の文化や、おもてなしの精神など、日本人のDNAが息づいている。世界各国へ出店する際は、ソフトの部分も伝えていく。店舗スタッフを教育するには、ただ押し付けるのではなく、きちんと説明しながら身につけてもらう。時には、日本の歴史や日本人の文化的、精神的な話をすることもある。
「前職では“ITベンチャーに就職するなんて…”から、“イケている人、デキル人はITベンチャーに行く”という時流を業界全体で盛り上げて創造していきました。それを、今度はファーストリテイリンググループをはたらく場として選ぶことがいいんだという流れを創っていきたい。これからの日本をリードし、支えていく企業、世界中の人々になくてはならない存在になる企業にこそ、素晴らしい可能性を持った、内に秘めた才能あふれる人材が必要ですから。」
「うちの会社で一番いいなと思う所は、会社の戦略や目標が、上から下まで一気通貫していること。会社の目標ってなかなか現場まで行き届かないことが多い。でも、ユニクロの店長に夢や目標を聞くと、みんな会社がグローバルでNo.1になるということを、ゆるぎない前提として、だから自分はこういう風に世界に貢献したい、と自分の言葉で話してくれるんです。
店舗スタッフ全員、アルバイトにまでその日の売上を共有するということも、独特の文化かもしれないですね。会社の規模が大きくなっても、1号店の頃、同じビル内に社宅や休憩室があって、家族みたいにやっていた頃の精神が残っているような気がします。社長の柳井と現場の店長との距離もすごく近いですね。」
人事は経営者の右腕として、経営者が事業に専念できるように、事業と結びつく人に関わる課題を全て引き受けるところ。そのためには、人事パーソンである前に、ビジネスマンとしてきちんと事業を理解することは必須、と中西氏。
「それから、人事の人間は、常に自分の行動や判断を『律する』ことが大切だと思います。人事の人間がちょっとでも崩し始めると、会社の文化も崩れていってしまいますから。“正しい事を、正しくやる”それは僕の信条でもあります。会社の風紀委員ですね(笑)。」
「人事の仕事は、頭の中でどんなにロジカルに組み立てたところで、最後に決断する時に、人の顔が浮かんで見えて、一筋縄ではいかない、すごく面倒くさい仕事だと思います。でも、だからこそおもしろい。そういう仕事だから人がやる必要がある。
僕は、いろんな人がこの仕事をやってくれたらいいなと思っています。」