全国の人事パーソンへのメッセージ
Vol008想い切りトーク
取材日: 2015年10月9日
※会社名・役職等は取材当時の名称を掲載しております。
「SUUMO」など、リクルートグループの「住まいを中心とした暮らし」の領域を担う、株式会社リクルート住まいカンパニー。暮らしの中で大きなシェアを占める「働き方」の改革を進めているのは、人事部長 中村多佳子氏。その信念に基づく戦略とは。
「私の仕事って世の中で、どんな意味があるんだろう?」
中途入社でリクルート社に入り、「SUUMO」の前身である「住宅情報」の営業をしていた中村氏は、自分の仕事に奥行きが見いだせないでいた。既に企業ブランドが確立されていた当時、がむしゃらに営業しなくても結果は出た。スピード感があり、成長できる社風にも不満はなかったが『何パーセントのシェアを取る』という言葉がすこし空虚に感じられていた。
中村氏は、電車に乗っては、いろいろな駅の街並みを眺めてまわった、時間帯を変えて何度も足を運んだ場所もある。夕方、100軒くらいあるマンションの棟に、ぽつりぽつりと、灯りがついてくる。「シェア20%というのは、この20軒に灯をつけるということなんだよなあ」そう考えた時に、自分の仕事の価値が見えて、世の中と繋がった気がした。
「それで、腹落ちしました。せっかく会社の看板があるんだから、ただ媒体を売るだけではなく、経営者の方にリクルートの価値を感じてもらおうと思って。当時の上司からも、ケイモク(経目=個人の数字目標)なんて、とっとと終わらせて、もっとおもしろい仕事を自分で探すんだよ、とよく言われていました。」
前職でも、与えられた仕事をただこなすだけで満足することはなかった。新卒で商社に入社して最初の配属先は審査部門。しかし、人事制度の中から「自己申告制度」を見つけ、営業への異動を願い出た。リクルートとは対象的に、長期評価の商社で担当した案件は、短いものでも13年、長いものは27年。今でこそ、若い自分の判断だったと省みれるが、当時は仕事と自分の人生を重ねてイメージすることが難しかったという。
大きな学びがある環境で、仕事も楽しかったが、入社3年を待たずして転職を決意する。商社で経営指標の見方を叩きこまれていた中村氏は、当時、リクルート社が1兆円の借金を返し終わったというニュースに注目した。10年で1兆円返済できた利益率の会社が、どんな新しい事をやらせてくれるのかと期待が膨らんだ。
転職5年目の30歳で出産。どんなに仕事が楽しくても絶対に30歳で子供を産むと決めていたという。1年間の育児休暇は、ママ生活にどっぶりと浸かった。スピード感のあるリクルートに復帰して活躍できるか不安はあったが、だめだったら辞める覚悟で復職した。そんな心配もよそに、1年後には、人事部に異動、リクルート住まいカンパニーとしての分社化のタイミングでマネージャーになり、課長に昇進後は、わずか半年で、部長に就任する。
18時には退社するという中村氏は、暮らしと仕事のいい関係を自ら実践している。そして人事の立場から、社員の成長と同時にその家族の暮らしを豊かにすることに取組んでいる。
『住まいを中心とした暮らしの進化を追求し、幸せな個人や家族をもっと増やす』
リクルート住まいカンパニーが掲げるミッションである。
「暮らしのなかで、「働く」は相当な部分を占めていると思います。だから、まずうちの社員が『幸せな個人や家族』にならなければと思っています。そのために、会社全体で、在宅ワーク、テレワークなど様々な働き方を推進したり、自然豊かな地方での遠隔ワークなど、さらに新しい提案を検討したりもしています。」
例えば、リクルート住まいカンパニーには、育児のために終日在宅勤務している男性の営業部長がいる。ワークライフバランスに配慮した「働き方改革」を進めるにあたり、意外にも、男性のケースを作ることが、女性にもスムーズに取り入れられる事例になった。
しかし、ややもすると労働時間を削減することだけがワークライフバランスと受け取られがちだ。それに対し、中村氏が強くメッセージしていることは、労働時間の短縮と、成果を上げることの両方がセットだということ。そうでなければ、自分たちの成長もない。
「ダイバーシティと言うと「いろいろな人を受容することですか?」という人がいますが、当社には、人材マネジメントポリシーがありますし、仲間と働く事を共感し、成長への意欲があることが前提です。私たちは、成長したい人といっしょに働きたいと思っています。」
株式会社リクルート住まいカンパニーの人材マネジメントポリシー
中村氏は、ミドル社員のマネジメント力強化にも注力している。「MGM」という研修がある。意味を聞くと「もっとグレードなマネージャーになる研修」との答え。そして、もうひとつの「MGM」「もっとグレードなメンバーになる研修」とペアの講座である。
最近では中途社員も増え、これまでのマネジメント層が受けてきた教育だけでは人を育てられないと感じていた。特に、他社での過去の環境や経験の違い、それに応じて育成方法をかえていくニーズを感じて企画した研修である。研修の一番の狙いは、部下の事を知ること。実際に結果を出している上長に部下の事を聞くと、話がつきないそうだ。しかし、聞いても「うーん、彼はスタンスがね…」などと、部下が前職で何をやっていたのかさえも知らない上司もいる。部下から何も引き出してもいないのに「ない」と決めつける上司では、やる気を持って入社した人材の立ち上がりが遅くなる。
中途入社した部下が「昼食は何時ですか」と聞いた。その一言で上司は「なんでも指示待ちタイプのダメな部下」と判断した。しかし、前職の金融会社では、休憩時間が一律に決められていたので、本人はルールを正しく守ろうとしただけであった。企業によって風土や文化もちがう。そんな些細な誤解が人材の成長を妨げるし、理解できれば、全く違う成長を遂げる。「MGM」は、まさに目から鱗が落ちる研修である。部下を理解することで、上司の接し方が変わり、それによって部下が成果を出し、社内で表彰されたケースも生まれた。
人事パーソンには、社員にリアリティーを持って伝える力が絶対に必要だと中村氏は実感している。そのためには、「情」と「理」の両方が必要だと。
「小さなことですが、人事部の人間が、人の名前の読み方や漢字を間違えると、すごく注意します。人事の仕事をしていて、人の名前に興味がないというのは、ないですからね。
やっぱり人は、ちゃんと見なきゃいけない。でも全員の希望をかなえると、会社として成り立たないので、「こうして下さい」と社員に伝えなければならない時もある。どちらかに偏る人は多いですが、「理」と「情」両方だよって、部下にも常に伝えています。
特に「情」、それは人に伝わってしまうから。行動や、ちょっとした言葉にその人が出ますよね。最後1対1で会った時の「人」というのは、他人からは借りられません。だから、人事パーソンは、絶対に「人」を磨かなきゃいけないと思います。業績に頼れない人事では、磨く努力をしている人としていない人は大きな差がでます。」
中村氏が、仕事の判断で大切にしていることは、2つ。『会社を守ること』、『未来を作ること』。
「仕事をしていると、どうしても目の前のことに対応したくなるし、目の前のことで解決したくなると思うんです。けれど、そんな時は必ず自分に問います「それは、会社を守るためか?」「会社の未来を作ることになるか?」って、その上で、戦わなきゃならない時は戦います。」
中村氏は、「働き方改革」や「人材育成」を通して、社員とその家族の暮らしを豊かにすることに信念を持って挑んでいる。
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