全国の人事パーソンへのメッセージ
Vol006想い切りトーク
取材日: 2015年10月19日
※会社名・役職等は取材当時の名称を掲載しております。
世界最大級の消費財メーカー「ユニリーバ」。その商品は、世界のどこかで、毎日20億人に使われているという。日本でも「LUX」「Dove」「Lipton」などの様々な消費財ブランドを展開している。その人事をリードするのは、取締役 人事総務本部長の島田由香氏。学生時代から組織・人事一筋に歩んできたという島田氏の、パワフルでハッピーな人事論とは?
「一人ひとりが元気だったら、組織だって元気になるんじゃない?」
大学の教養課程で受けた「組織論」の授業中に、ふとそう思った。「人事」という仕事もそのとき初めて知った。国際関係学を学ぼうと入った大学だったが、その日のうちに専攻を変更。“きつい”と評判のゼミも、島田氏にとってはとにかくおもしろかった。ゼミの先生と仲間とは今も交流が続いているという。「(人事をやるから)ジンジャーズって名前です」と島田氏は笑う。
人事か、人や組織に関わる仕事、と決めていた島田氏は卒業後、人材関連のベンチャー企業へ入社する。会社説明会で垣間見えた社員同士の関係の良さを感じ取って、フィーリングで決めた。4年間、やりたいことは全部やらせてもらえたという。しかし27歳になった島田氏は、留学を決める。
1年半後、コロンビア大学で組織心理学の修士号を取得。それは次への大きな自信になった。
帰国後、米系大手複合企業に入社。人事の楽しさ、イロハを習得させてもらいながら、様々な仕事をこなす一方、小学生対象のボランティアプログラムも立ち上げた。結果さえ出せば自由にやらせてくれた社風にも、上司にも本当に恵まれたと当時を振り返る。
「私、未来の事を心配するって、本当に意味がないと思っているんです。」
その時やりたいことを全力で楽しみながら、結果を出す。島田氏が常にいきいきと働き、キャリアを築いてきた秘訣なのかもしれない。
そんな島田氏も迷ったことがある。子供が生まれてからの数年、多くの女性が囚われる「家事も、育児も完璧であらねばならない」との自分への呪縛。なによりも「子供と一緒にいる時間が短いのは、子供に悪い影響を与えるのでは」という思いから、働き方を変えることも考えた。
職場の先輩ママのある一言が、島田氏の意識を変えた。「他人の手を借りてもいいんだ」「仕事が何より大好きな自分が、いきいきと仕事をして、子どもといる時間に笑顔でいられるほうが、子どもにとってもいいはず」そう思えた途端に、すっと迷いは消えた。それまで心の中で「ごめんね」と言って保育園に預けていた息子を、「楽しんできてね」と送り出せるようになった。
2008年、島田氏は世界的な消費財メーカー、ユニリーバへ入社。そして、2013年4月、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事本部長に就任し翌年からは総務も担当している。人事という仕事を通して、人の可能性を広げることに挑戦している。
「国籍がどうだ、女性だからこうだという話題は、うちの会社ではディスカッションにも上がりません。それよりも、考え方が違う、働き方が違う、好みが違う、全部違う人が集まった時に、結果に向けてどんなふうに力を出していけるの?って。それを考えることが本当のグローバルだと思っています。」
そんなグローバルな視点があれば、相手を理解しようと思えるはず。マーケティング、営業、製造…自分のファンクションにフォーカスしすぎると全体が見えなくなりがちだが、一歩引けば、全体が見えてくる。視座を上げれば、見えるものが変わる。それが仕事にも活きるし、人間としての幅も広がる。そのために大事なのはAwareness(気づき)だと島田氏は言う。
「VUCA ※1ワールドと言われる、これからの世界で、グローバルにリーダーシップを発揮できる人材を育成するために、“自分のことを内省していますか?本当のリーダーシップを発揮していくってどういうことですか?本当の関係性を作っていますか?”って、社員1人ひとりが気づきを得られる機会を人事として積極的に創っています。」
ユニリーバ自体も『地球のために』という壮大な視野を持ち、ユニリーバ ・サステナブル・リビング・プランでは「すこやかな暮らし(健康・衛生/食)」「環境」「経済発展」の3つの分野に取り組むことを公約している。地球全体の未来へ目を向けたサステナビリティーを重視する考え方だ。そこにユニリーバという会社らしさが見える。
「消費財を扱うユニリーバには、世の中の人にいいものを提供したい、世の中をよくしたい、そんな思いが強い人達が集まっている。ここには本当に助け合う、心根のいいカルチャーがあります。だから、採用時にはパッションはもちろん、カルチャーフィットも大切にしています。」
その「消費財」に、島田氏はすでに大学時代から興味を持っていた。いまのCSRにも繋がる「市民参加論」の授業で、化粧品メーカーの美容部員とともに老人ホームの高齢者にお化粧を施す活動に参加した時のこと。
「お化粧をする前と後の笑顔や目の輝きの違い、もう、それがびっくりするくらいなんです。こんなちっちゃなもので、人って変わるんだって、すごい感動でした」
消費財は、人々の生活の中にエネルギーを与える。だから、人に興味がないといい消費財は創れない、と島田氏は考える。
「人事は直接ものは売れないし、作れない。でも、現場の人達を全身全霊でサポートして、時には叱咤激励する。その人達の先にある物が「消費財」だという事は、私にとって、人事の仕事をする上で、とても大切な事なんです。」
「会社を本当に良くしたければ、人事がそれを一番実現できる所。社員にも関わり、大事にしながら、大きな視点で経営サイドからも考える。“この会社にとって、いまするべきことは何なのか”そして“人事として、何にどのように影響を与えるべきなんだろう?”って。
人事になった人には、“Lucky you!”って言いたいです。私は人事以上におもしろい仕事はないと思っています。
ものすごく戦略的に動く部署なんですよね。いろんなところでバランスを取らないといけない、でも八方美人であってはならないし、コンフィデンシャリティーも必要。企業の人事がどうなるかで、日本は変わると思っていますし、それは私のライフミッションのひとつでもあります。」
“人間観”が組織を左右すると島田氏は思う。人はだれでも強みと弱みを持っていて、それに気づく事がとても大切であるし、場所を変えれば弱みも強みに変わる可能性を持っている。「私は、人の強みにフォーカスして楽しみたい。」と島田氏は話す。
「“いい人事とは?”といろいろ考えてきました。これは私の持論なんですが、人事はやはり常に元気だといい。人事の人と話すと「なんかすっきりする」とか、「なんか元気になる」とか。人事って明るくて、ちょっと寄りたくなる、そんな部署であるべきなんですよね。
たとえば、自分が担当を変わった後でも、「ちょっといい?」って相談に来るとか、他の部署に行くついでに顔をみせてくれるとか、旅行にいってきたから「はーい、お土産」とか。そんな関わりを社員の方からどれだけ持って来てくれるか、それも人事としての1つのKPIだと思っています。」
週末も小・中学校でキャリア教育に関するボランティア活動をしているという、島田氏の視線は、ユニリーバの社員1人ひとりから、企業の未来、社会の未来、さらには地球の未来にまで向けられている。