給与計算をはじめとしたBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)は、業務の削減や圧縮、業務フローの標準化や最適化、ノンコア業務の外部委託等によって社内リソースの最適配分などを実現するために、大きな時間とコストを費やしてユーザー企業は導入します。
導入時にはユーザー企業とBPOベンダーの間で協議を重ね、BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)による業務内容や業務フローの再構築(標準化、最適化)、システム化による業務の定型化や品質向上などを実現し、導入企業にとってベストな業務形態を構築しています。
こうしてベストな形態を実現して開始するBPOですが、日々発生する変化に対応して現場での改良、改善、部分最適を繰り返した結果、数年経過後には当初想定した導入効果が得られなくなってしまうことがあります。
今回のコラムでは、BPO導入後に起こりうる、業務内容や業務フローの日々の改善、変更に伴う導入効果の低減やノウハウの空洞化の問題にフォーカスして発生原因と当社が考える対策をご紹介します。
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人事部の業務は日々発生する様々な事象によって、従来実施していた業務内容や業務フローの変更を余儀なくされることが多々あります。当社のお客様でも多いところでは、十数件の変更を検討しており、様々な問題をどのように取り扱い、解決していくかといったことに大きな労力を費やしています。
そうした変更の要因で特に下記5件は発生頻度が高く、多くの人事担当者が適時の対応を迫られる案件です。
ここからは、上記の要因を含む何らかの理由で対応が必要になった際の検討/対応方法について、特にご注意いただきたい点をご紹介します。
通常BPOは、定型の業務を一定のルールや手順に基づいて実施するものです。そのため、ルールや手順が頻繁に変更される業務に関しては、基本的にBPOには向いていません。
というのも、BPOベンダーの実施業務を変更する場合には、BPOベンダーにおいて、調査、検討、マニュアル変更、教育、定着といったフローを履行する必要があり、その対応には一定の期間とコストが必要になるからです。まずはその点を許容できるのかを検討いただく必要があります。
そして、変更に向けた業務設計、手続き設計に関して、どこまで確実に実施できているのかという精度とリスク、その確認と責任範囲の問題も発生します。
当社では、これらのことから変更が多い業務は、業務内容や手続きの変更がほとんど無くなるまでユーザー企業自身が実施することをオススメしています。対応スピード、コスト、リスクなどの問題を許容して、それでもなおBPOを行うという場合は、業務設計の精度向上に向けた対策と責任範囲の検討、稼働後に発生するトラブルに対する受容レベルの検討も必要です。
業務によって頻度に差はありますが、業務変更の無い仕事などほとんどありません。だからといって業務変更の度に大掛かりなリニューアルをしていると、それこそ対応スピードやコストなど割に合いません。
そのため、業務変更案が出た際は、まずは変更せずに解決する方法を模索してみる。その結果、避けられない場合は最小限の変更にとどめる意識が必要です。また、発生都度対応するのでは変更の頻度が増えてしまいますし、それが本当に必要かどうかの判断も難しいかと思います。ですので、一定期間で変更案をまとめて全体を考慮したうえで対応すると良いでしょう。
業務変更を検討する際に、現場だけで判断/決定をしてしまうと全体最適が取れなくなり、コストは掛かるのに逆に非効率なフローになってしまうトラブルが起こったりします。こうした事態を避けるため、人事部の中の取りまとめ組織と一緒に最終判断を行うと良いでしょう。そうすることで、全体最適やコスト(導入コスト、継続のためのコスト)、導入時期等の判断は当然ながら、業務内容に関する両社の責任範囲、リスクの観点なども踏まえてBPOすべき業務かどうかの最終判断を慎重に進めることができるからです。
しかしながら、実際には上記を基本としながらも、日々の対応としては緊急性や必要性を優先して適時、適切と考えられる対応を実施せざるを得ない場合も多々あるかと思います。
この様なケースの対応としては、年に一度、あるいは数年に一度の頻度で、棚卸、レビューを実施し、適切な補正や意識合わせをユーザー企業とBPOベンダーの間で実施する必要があります。
ここまで、業務内容や業務フローの変更についてご案内して参りました。ここからはBPO導入後、ユーザー企業主導の下に積極的な改善や業務実施内容の変更が継続的に行われた際に発生する問題、「空洞化」についてご紹介します。
BPOベンダーにご相談なくユーザー企業に業務改善や変更を進めた場合、当初の想定を超えるBPO業務範囲の拡大、さらにはBPOベンダーの責任範囲の拡大に繋がることがあります。この場合、BPO導入効果が当初想定より悪化する問題以外に十分に検討すべき大きな問題が「空洞化」です。次の章では、この問題についてご紹介します。
人事業務のアウトソーシングに限った話ではありませんが、アウトソーシングサービスを導入する企業が考慮すべき課題/リスクとして「ノウハウの空洞化」があります。皆様は、BPOを検討する際、BPO導入後の効果(業務効率化、コスト削減等)の検討だけにとどまっていませんか?BPO導入には、その効果を検討すると同時に、BPO導入後のリスク(空洞化対策)も検討する必要があります。
では、どうしたらいいのでしょうか。
「空洞化」の問題を考えるにあたっては、「人事部がどうありたいか」を決めることが重要です。 人事部をどんな体制にして、どんな業務を実施するのか。そしてBPOベンダーとの役割分担、責任範囲をどう定義するのかをまずは決める必要があります。
これらの人事部の方針が定まると人事部がBPOベンダーに期待する役割、業務内容を定義することが可能です。この定義ができれば、BPOベンダーは業務対応範囲・内容や対応要員のスキル(ノウハウ・経験、対応力)や稼働コストを決定することができるのです。
対応要員の業務(スキル)は、大きく3段階に分かれます。
業務範囲とBPOコストの観点では、[業務①]「狭い/安い」から[業務③]に向けて「広い/高い」となります。
一方、社内へのノウハウ蓄積(空洞化)の観点では、[業務①]「ノウハウ蓄積継続可」から[業務③]に向けて「ノウハウ蓄積困難」となります。
この二つの観点は、「人事部がどうありたいか」に対応して発生する状態です。
空洞化に関しては業務を外部委託する以上、完全に防止することはできません。そのため、どこまでの空洞化を許容し、対応策をどう設定するかを検討することが重要です。
空洞化の問題が顕在化しやすいのは、「通常時にはないイベントが発生した時」です。例えば、「法令変更や制度改定に対応」、「業務追加や変更、イレギュラー対応の検討」、「ベンダー切替やシステム切替」などがあります。もし社内のノウハウが空洞化していた場合、これらのイベントに対応する施策を人事部だけで検討、決定する事が困難になります。そのような事態を避けるためにも、BPOベンダーとの役割分担や責任範囲等を予めしっかりと設定したうえで進めていく必要があります。
「有事」に備え空洞化の症状を最小化する対策は、ベンダーに蓄積されるノウハウや経験を随時回収する仕組みを作ると良いでしょう。具体的には下記の対応が考えられます。
1~3の対策は、決して空洞化を100%担保できるものではありませんが、有事に備えて不可欠な対策です。既にBPOベンダーを活用している企業様でまだ実践できていないものがありましたら、是非この機会に実践してみてください。
今回記載した内容を意識して日々活動していても、業務の肥大化、コストアップはどうしても発生してしまいます。これは人事部が日々発生する変化に対応する必要があるというだけでなく、BPOという形態の特徴として、人事部からはBPOベンダーの業務肥大化や稼働人員拡大の状況が見えにくいため、業務の状態やコストアップの実感を把握しにくいことも一つの要因と考えています。
BPO導入によって得られた効果を減少させないための対策としては、やはり、定例会等の場を最大限に活用して、人事部とBPOベンダーとの情報共有、課題共有、意識合わせを密に行うことが重要です。
大きなコストを支払って導入したBPOです。「人事部のありたい姿」を常に意識して、効果の向上・継続に取り組みましょう。
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