最近、「男性育休義務化」という言葉を様々な場所で見聞きするようになりました。 というのも昨年、厚生労働省にて男性育児休業に関する報告案が示されたことで注目が高まっているからです。
※参照:厚生労働省 労働政策審議会 (雇用環境・均等分科会)
「男性育休義務化」に関するところについて要約すると以下のとおりです。
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そもそも、なぜこのような議論がされているのかというと、男性の育休取得率が著しく低いためです。
現状、男性の育休取得率(約7.5%)は女性の育休取得率(約83%)と比較になりません。
政府目標である「2025年に男性育休取得率を30%にする」を見ても達成には程遠く、1~3の義務化を進めているというわけです。
※参照:厚生労働省「令和元年度雇用均等基本調査」
こうした背景からこれから男性の育休取得が増えていくと思いますので、今回は私が体験した2ヶ月の育児休業を簡単にご紹介したいと思います。
まず、率直な感想は「育休を取って良かった!」です。これは間違いありません。
今後、周りには、「育休は取ったほうが良いよ!」と言うと思いますし、具体的に言えば、”できれば1ヶ月”、”可能なら2ヶ月以上”取れると良いとアドバイスします。
理由としては、 産後1ヶ月の間は、精神的にも肉体的にも母体には負荷がかかり家族によるサポートが必要になるからです。
一般的に「出産だけでも全治数ヶ月の事故にあったようなもの」だと言われています。そのうえで、ホルモンバランスが乱れるため、精神的にも情緒が不安定になる方も少なくないようです。
これについては事前知識があったものの、いざ目の当たりにすると想像以上でした。 筋力の衰えは際立っていて、手をつかなければ上体を起こせないほどに弱っていましたし、精神の消耗も著しかったです。
後で妻から聞いたのですが、「何をするのかわからなくなってしまい、しばらく呆然と立ち尽くしてしまった」といった出来事があったそうです。この話にその消耗具合が集約されていると思います。
こうした背景には、不眠が理由の一つとしてあげられます。
特に母乳育児をしている場合、お母さんは1~2時間おきに赤ちゃんに母乳を与えなければなりません。いわゆる夜泣きです。
「覚悟はしてたけど、やってみると大変!」と、同じ時期に出産を経験した友人も口を揃えてました。
医者にも安静にしておくようにと言われるため、最低限の生活が送れるまでは早くても1ヶ月かかります。
そのため、この産後1ヵ月のサポート体制を家族が整えることはかなり重要なことだなと思いました。
そのうえで「可能なら2ヶ月以上」と前述したのは、妻が回復してから1ヶ月の間、育休が明けてからの生活基盤を固められたことが、個人的にとても良かったからです。
というのも、私は自分が職場復帰したときのことをイメージしながら、徐々に夫婦の役割分担を決めたり、ワンオペに備えてお互いが外出の練習をしていました。「妻がある程度回復していなければできないこと」を、落ち着いて整理が出来たことは、肉体的にも精神的にも非常に良かったです。
もちろん、担当している仕事の状況もありますし、ご両親等のサポートが受けられるかという外部要因も色々あると思います。ですが、この期間育休を取ることは夫婦にとって、とても大きなメリットがあることだと強く感じました。そういった意味で育休を取得させてくれた会社には感謝の念しかありません。
口を開けて待っていても育休を取得することはできません。 現状、男性が育休を取るためには、「働きかけること」がとても重要になってくると思います。
育休を取るステップを語る上で避けて通れない性差の一つに、「産休」の存在があります。
女性は「産休」の延長に「育休」がありますが、男性には「産休」はありません。
そのため、男性が「育休」を取るためには、より意識的に会社に働きかけていくことが必要となります。
(だからこそ、政府も「取得の働きかけ」を事業主に義務付けしようと動いているのだと思います。)
参考までに自分がどのように周囲に働きかけたのかを本項に記載したいと思います。 ポイントは2点で「周囲(特に上司)に発信し続ける」、「育休に入る前の仕事の区切りを自分で宣言する」です。
自分の場合、絶対に育休を取りたいと事前に思っていました。そのため、妊娠の報告を上長にした時点から「予定日は7月になりました!2ヶ月程度育休をいただきたいと思っているのでよろしくお願いします…!」と早めに頭出ししました。そして、ことあるごとに「7月から9月の中旬までは育休中なので…」などのアピールを上長、同僚にし続け、「育休を取る人」としての認識を強く持ってもらうように周りへ働きかけました。
また、これは先に育休を取得した同僚(男性)のアドバイスに従ったのですが、育休に入る前の仕事の区切りをある程度自分から上長に宣言しました。これは効果的な働きかけだったと思います。自らが宣言をしたことで、上長も「そこまでやるなら区切りが良いか」、「いやここまではやってくれ」等の社内調整がしやすかったのではないかと思います。
自分の職場は、男性育休に対して前向きでしたのでかなりラッキーな状況でした。
ですが、男性育休にネガティブな職場であればあるほど、早めに現場と調整を開始することが必要になってくるかと思います。
もし、今後会社をあげて男性育休の取得を後押ししていくのであれば、個人が声を上げやすい環境や、人事部が現場との調整を後押しできる仕組みを作ることが有用かと思います。「もう、そういう時代です」という雰囲気を出して、粘り強く現場を啓蒙していくことが必要であると考えます。
ここまで、「育児の負担を分担する」、「育児は大変である」というネガティブな文脈で話をしてきてしまったので、最後に、『育休で得られるプラス』についてお話ししたいと思います。
私が感じた育休の良さは次の二つに集約されます。
⇒ 生後間もない子供の成長は本当に早いです。日々体重は重くなり、日々何かしらが変化をし、日々できることが増えていきます。
そのすさまじい変化の一つ一つが可愛く、感動的です。それを毎日目の当たりにできることは、今まで感じたことのない喜びでした。
⇒ 夫婦で一緒に①を経験することで、その喜びは何倍にも大きくなったように感じます。同じことへの喜びを横で感じている人がいて、それを共に話しながらまた盛り上がることができること。
日々の子供の成長を「そうなんだ」という伝聞ではなく、「そうだよね!」という共感で返せること。これらもまた、これまでに感じたことのない喜びだったように思います。
好きな漫画(ミステリと言う勿れ)に『子供の成長に立ち会うことを「強いられる”義務”」と思うか、「得ることができる”権利”」と思うか、は天と地ほど異なる』という一節があります。これは考えさせられる言葉だなと思いました。
正直、自分も最初から、育休を「権利」と考えられていたかどうかは疑問です。
妻をサポートしなくては、という思いが大きかったのは確かですが、これは大別すれば「義務」感であったとも言えます。ですが、育休期間を経た今、育休は「子供を見守り、成長に立ち会うことができる”権利”」だと心から思います。
そして、会社員に対する日本の育休制度はとても手厚いです。実際、育児休業給付金の額面を見て驚きました。
(非課税だから手取り換算すると実質8割位戻ってくるんですね…)
※これはあくまで私の場合です。条件によっては異なるのでご注意下さい。
私は、“育休を取得すること”で上述のプラス面に気付くことができました。ですが、もしこの辺りのことも育休取得前にわかっていたのであれば、育休取得を推進するための燃料になったかもしれません。
なにより、このプラス面を知ることなく、育休の機会を逃している方がいらっしゃるのがもったいなく感じます。
会社として男性育休の「取得の働きかけ」を推進するのであれば、「育児の大変さ」と合わせて「単純なプラス」についても従業員へ発信していくことは効果的かと思います。
今回の議論が制度に盛り込まれれば、男性育休の取得率の向上は、トップダウン的に推進されていくことになります。
育休取得のための「環境作り」、「取得への働きかけ」はもちろん、それ以外の対応にも迫られる可能性もあります。
人事担当者からすると、「政府からの対応に追われる」ネガティブなモノと捉えられるかもしれません。
もちろん、そういった側面もあるかもしれませんが、意外と人事課題の解決に一役買うことが出来るのではないかと思います。
私が取得後に振り返ってみるとこのような機会をくれた会社への感謝の念が強く、組織コミットメント(エンゲージメント)の向上を感じたからです。
ポジティブに考えるとこの育休問題に対して早めにアプローチすることで、組織力向上も期待できると感じています。男性育休によってもたらされるプラス面は、私生活の充実 / 安定に繋がります。ワークライフインテグレーションの観点でいえば、充実 / 安定した私生活は、仕事のパフォーマンスにも良い相乗効果を与えます。
是非、エンゲージメント施策の一環として能動的に、もしくは、エンゲージメントを推進する意識で能動的に整えていただきたいです。
人事はその際に、以下二つが重要になります。
日本において、有給休暇が取りづらいように、育休を現場の上長に申し出ることは何となくハードルが高いものです。
育休取得について早めに現場とコミュニケーションを取るような場を持たせる(もしくはコミュニケーションを取るように働きかける)ことが肝要です。
例えば、育休についての理解を深めるための研修を現場責任者たちへ実施する。
配偶者出産の情報を人事に申請しやすい仕組みを作り、申請を受けた人事の人間が現場とのコミュニケーション機会を強制的に設けるような仕組みを作るなどは効果があると考えます。
これは従業員に取りたいと思わせることが重要です。育休を取ることで低減できる大変さ、プラス面をしっかりと育休取得者にイメージさせると良いでしょう。例えば、社内報等で育休取得者の声を周知するなどは効果があるのではないでしょうか。
育休を取りたいと思わせることとは少しずれますが、育休中の会社とのやり取りについてガイダンスをする際に、配偶者の衰弱によるサポートの重要性や、子育てをすること注意点についてレクチャまたはガイドラインを配ったりする。などのサポートを会社が行うことでエンゲージメントのさらなる向上に寄与するのではないでしょうか。
核家族化がますます進む昨今、男性育休の重要性は高まっています。
個人的には、育休取得をするか迷っている方は、「権利」と思って取得することをお勧めしたいです。
(自分がそうであったように、育休を取ることで見えてくることが沢山あるのではないかと思います。)
そして、人事部には「権利としての育休取得」をサポート、後押しする存在であってほしいです。
もし、現在、貴社で男性育休を取得する文化が醸成されていないのであれば、「制度を作る」などの大掛かりなところから始めるのではなく、できることからサポート体制を作り、男性育休取得の実績を1件ずつ積み上げていくのが良いかと思います。
そして、育休取得者の生の声をヒアリングしていき、自社にマッチした育休取得環境を作ってみてください。そうすれば、きたる「男性育休義務化」施行のタイミングでも焦ることなく対応できるのではないでしょうか。
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