私事ではありますが、初めて人事システムの導入プロジェクトに関わってから、25年以上経ちます。
私が関わった当時は、人事システムというと地味なイメージが強くあまり華々しいものではありませんでした。
それだけに、最近テレビで人事系のサービス、いわゆるHRテックのCMを見ると隔世の感を強く感じます。
タレントマネジメント、働き方改革、そして昨今のテレワークへのシフトなど、人事業務への変革が喫緊の課題になるなか、システムを利用してそれらの課題解決に向かおうという機運が高まったことが背景にあるのでしょう。
一方で、人事部やシステム部門において、テレビCMで流れているようなシステムやサービスの導入について不安を感じる方がいるというのも、仕事やプライベートでそういった分野の知人と話していると感じることが多々あります。
華やかでかつ何かを便利にしてくれそうなシステムが、社内で乱立することで逆に手間がかかる運用を生み出すことを経験上ご存知だからでしょう。
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資料を受け取るシステム業界では、業務システムをどのように構築するかという方針について、頻繁に議論になる論点がいくつかあります。
その一つが、システムを一つのベンダー製品で多機能なもの一つで構築するか(オールインワンまたは、ソフトウェアスイート)、個別機能ごとに最適な製品を採用するか(ベスト・オブ・ブリード)です。
大きくは、企業内システム(会計、人事、サプライチェーン等々)をすべて一つの製品で構築するか否かという議論もよくありますが、例えば、人事部門をサポートする業務システムをどうやって構築するかも同様の議論が発生します。
現在のHRテック系の製品は、多くが単機能(勤務管理、評価、タレントマネジメント、申請など)であるためそれらの製品やサービスを利用するということは当然、ベスト・オブ・ブリード型のシステム導入方針を取ることになります。
一般的には、システムの導入方針におけるメリット/デメリットは以下のようなものです。
方針 | メリット | デメリット |
---|---|---|
ベスト・オブ・ブリード | ・個々の機能に最適なサービスが選択できる ・サービス提供会社が分散している為、個別サービス提供が止まっても代替サービス手配の負荷が低い | ・サービスが独立しているため、運用負荷があがる(データ共有、不具合対応) ・提供会社が違うため、使い勝手が個々の機能ごとに違う ・機能ごとにログインをしないと使えない |
オールインワン | ・統一された使用感、データの共有が行われている為、運用負荷が低い ・サービス提供会社がひとつであるため、契約負荷等も低い ・ログインを1回行えば、様々な機能の利用が可能 | ・全体的には良くても、個々の機能では十分に満足できる性能が得られるとは限らない ・大きく一つの会社に依存するため、そのサービス提供が止まった場合の他社選定等が大変 |
かつては、上記のベスト・オブ・ブリードの欠点が重要視され、オールインワン方針でシステムを導入する企業が多かったと思います。
一方で、昨今のニーズの多様化を受け止めることができるオールインワン型のサービスは、こと人事の業務システム系で考えるとなかなか見当たりません。また、単機能の製品群の中には機能特化を図っているがゆえに、当該機能では利用者ニーズをうまく取り込んでいて魅力的な製品も多々あります。結果、運用負荷の低減だけを理由にベスト・オブ・ブリードの方針を採用しないという判断が難しい状況にあります。
ただし、前述したベスト・オブ・ブリードのデメリットに対しての対策を立てておく必要がありますのでご紹介していきます。
ベスト・オブ・ブリード方針を採用した場合の、最大の問題は複数のシステム間でデータの整合性を確保することです。
例えば、勤務管理システムと評価システム、タレントマネジメントシステムを別々の会社が提供するシステムを導入する場合、入退社情報はもちろんのこと、人事異動に伴う上司/部下関係の情報等を常に各システムに対して、アップデートし続ける必要があります。すべてを手作業でするとすれば、それはかなりの負荷になります。
しかし、現在では多くのシステムはAPI(アプリケーションインターフェース システム間のデータ連携の為の機能)、RPA(ロボテックプロセスオートメーション システム上の手作業業務の自動化ツール)の活用により、そういった作業の自動化が出来るようになりつつあります。
また、個別のシステムにいちいちログインしないといけないという課題も、ログイン方法の統一(シングルサインオン)という方法をとることで解消可能です。
そういった技術を活用することで、ベスト・オブ・ブリード方針のメリットを享受しつつ、デメリットを低減することができるようになります。
ただし、上記のような対応は、人事部門メンバーだけで実現するのは、無理があります。
そのため、ベスト・オブ・ブリード型でシステムを導入する際は、システム部門あるいは社内SEの役割はかなり高くなります。
一般的には現場主導でシステム導入を推し進める傾向が多くありますが、社内SEの方に複数のベンダーを調整する役割を担ってもらうことで、ベンダー任せではなく、上記のような方策を実現することが可能になります。
ただし、システムや技術を活用することに重きを置きすぎて、業務上実現したいことを実現出来ないのでは、本末転倒です。そのため、あくまでも主導権はユーザー部門(人事担当者)で握るべきです。
また、システム導入を行う際に、このようなシステム間のインターフェースや整合性をとるためのコスト(導入も運用も)をきちんと見込んでおくことも非常に重要です。
また、複数のシステムを協同させて運用する場合、どのシステムを全体のマスターシステムとして運用するかを決定することも必要です。
システム間の連携について、技術的な問題よりも大きな問題になりえるのは、システム間のデータの整合性確保です。
その問題を未然に防ぐ意味でも、いずれかのシステムがデータの大元であるという形に整理するのが一番の早道です。
単機能なシステムを利用する場合であっても、人事データのマスターを管理するシステムをきちんと整備しておくことで、システムの運用負荷はかなり低減されることも意識しておいたほうが良いでしょう。
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